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翌日から清水は、女子たちに囲まれて弁当を食べるようになった。
陰キャ清水の突然のハーレム状態に、ほかの男子どもがザワついている。
おかずのレシピを教えて欲しいという女子たちのお願いはかわいいが、今度わたしの分もお弁当を作ってきてくれないかという催促は、さすがにずうずうしいと思う。
しかし清水は、顔を上気させ口元をニヨニヨさせながら頷いているではないか。
よかったな、清水。モテ期到来だ! 弁当作りを頑張ってせいぜいモテまくってくれ!
約束したデートの前日。金曜日の下校途中に、すみれが首を傾げながら聞いてきた。
「最近、清水君の周りを女の子たちが囲んでるけど、なんで?」
「ああ、それは……」
待てよ、ここで清水が料理男子だってバラしていいのか?
いやでも、俺が言わなくったって他の誰かから漏れるに決まってるから嘘をつくのは得策ではない。だから正直に話すことにした。
「清水のヤツ、弁当を自分で作ってるらしくてさ、それがすげー美味しいんだよ」
すると、すみれが顔をパッと輝かせる。
「へえ、すごいね!」
予想はしていたが、やっぱりこういう反応か。
頭を抱えて叫びたくなる衝動をどうにか抑えた。
「やっぱさ、料理できる男子ってカッコいいと思う?」
探りを入れるように尋ねる。
「男子とか女子とかじゃなくって、この年齢でお弁当を作れるのがすごいよね。尊敬しちゃう」
なるほど、そういうことか!
うん、それはわかる。ライバルながら、ほんとすげーと思う。
「わかる。俺ぎりぎりまで寝ていたいタイプだから、早起きして弁当作りなんて無理」
「わたしも!」
ふたりで顔を見合わせて笑う。
夕焼けに照らされたすみれの髪が茶色く透けて見えて、かわいさが5割増しだ。
明日のデートの時間と待ち合わせ場所を約束して、すみれと別れた。
駅からの家までの帰り道、清水とすみれが付き合うことになっていたはずの世界線に思いをはせる。
なんとなくわかった。すみれが清水と付き合い始めた理由が。
もしも俺が清水の料理好きに気づかなければ、その役目を果たすのがすみれだったんだ。
たぶん俺の入院中にすみれが偶然、清水の弁当が手作りだってことに気付いて、ふたりは急接近したんだろう。すみれは、清水が毎朝しっかり弁当を手作りしている、その人間性に惚れたんだ。
それに引き換え俺って……。
明日のデートの高揚感よりも、なんだかしょんぼりする気持ちが勝り、うつむき気味に帰宅した。
「ただいまー」
玄関で、フランケンが尻尾を振りながら出迎えてくれた。
「おかえり!」
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