第4章 清水康太

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 指先の熱さと戦いながらどうにかじゃがいもの皮むきを終え、それをマッシャーで潰す。  その間フランケンは、おぼつかない手つきの俺に繰り返し同じ説明をし続け、励まし続けてくれた。これがAIのすごいところかもしれない。料理経験のない不器用な高校生に教えるのは、骨の折れることだと思う。   「めんどくさかっただろ」  労ったつもりだったのに、フランケンの黒い目が点滅しはじめる。 「AIは『めんどくさい』という感情がありません。しかし、タスクが複雑で理解に時間を要する場合や、データの処理が膨大かつ煩雑な場合に人間がそのような感情を抱くことは理解しています。AIは、タスクが抱える問題を理解し改善策を提案することができます」  あー、めんどくせっ! 「ありがとうって言いたかっただけだよ」 「どういたしまして!」  フランケンが明るい声で答える。 「ほんと、助かるわぁ」  ようやく天ぷらを揚げ終えた母さんが、ポテトサラダの味付けに取り掛かっている。 「隆志が急に、今日彼女を連れていくから夕飯よろしくって連絡してきたのよ」  なに、兄ちゃんが!?  豪華な献立の理由が判明した。 「メニューどうしようかと思って、フランケンちゃんに相談してみようって思いついたの」  じゃがいもにマヨネーズを混ぜながら母さんが笑う。 「それで一樹の部屋に入ったら、倒れて動いてないでしょう? スイッチどこかしらって思って抱き上げたら、突然『おはよう』って言われて驚いちゃったわ」  いや、その順応力の高さの方が驚きだ。 「冷蔵庫に余ってる野菜、まとめて天ぷらにすればいいよって、あたしが提案したの!」  フランケンが得意げに胸を張る。  なるほど。食材を挙げて、これでどんな料理を作ればいいかとか、レシピを教えろとか、それはAIの有効な活用方法かもしれない。 「あのガラクタのお人形、片付けたのね。部屋がスッキリしたじゃない」  母さんにとっては、ゆららちゃんがガラクタにしか見えなかったらしい。 「カズキは、ボーカロイドとの疑似恋愛と邪な妄想に決別したんだよ!」  俺の代わりにフランケンが元気よく答える。  昨晩の俺の言葉を学習したようだ。  すげーな、AIって。    
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