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兄が彼女を連れてやってきた。
スーツ姿が随分大人に見える。
彼女は職場の同僚で、望月芽衣さん。スラっと背の高い感じのいい美人だ。
「もっと前もって言ってよね」
そう言いながら、母さんは張り切ってテーブルに食器を並べている。
「今日はお父さんが飲み会だから簡単なもので済まそうって思ってたの。だから、あり合わせのメニューになっちゃって、ごめんなさいね」
いやいや、すっげー豪華だろ。
あれこれ手伝わされた俺はヘトヘトだ。毎朝弁当を手作りしている清水の凄さを改めて実感した。
しかし疲れ切っている場合ではない。
兄ちゃんが未来の奥さんを連れてきたってことだろ? つまり彼女は、フランケンのいる世界線でヒキニートの俺の面倒をみてくれた人ってことだ。
この先ヒキニートになるつもりは一切ないが、義理の姉との関係は良好な方がいい。
そうすれば兄が心労で早死にすることもないだろう。
だから俺は、食卓で精いっぱいおちゃらけて明るく元気に場を盛り上げた。もちろん下品にならないように食事マナーはきっちり守って。
「一樹、おまえ随分明るくなったな。高校、楽しいのか?」
帰り際、玄関で靴をはきながら兄が振り返る。
「楽しいよ、とっても」
清水にからかわれても、暴力沙汰なんて起こさない。ちゃんと毎日楽しく学校に通って卒業してやるぜ!
だから兄ちゃんも幸せになってくれ!
笑顔でふたりを見送った。
キッチンに残っている、大皿にのせきれなかったおかずを見て、ふと思う。
清水ももしかすると、夕飯の残りものを弁当に使っているのかもしれない。もちろん手作りのおかずもあるだろうし、早起きして弁当箱に自分で詰めるだけでもえらい。
でもそう考えると、超人か神様のように思っていた清水のことが、少し身近になる。
「明日、これ持って行こうかな……」
その呟きが母さんに聞こえていたらしい。
「どこに行くの?」
どう言おうかと躊躇する俺に代わって、フランケンが元気よく答える。
「すみれちゃんとデートだよ!」
「コラ、言うなよっ!」
家族に恋愛のことをあれこれ詮索されるのは居心地が悪い。
それを察してか、母さんはニマニマしながらもそれ以上なにも聞いてはこなかった。
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