第5章 すみれとのデート

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第5章 すみれとのデート

 すみれとのデートの日を迎えた。  待ち合わせ場所は、お互いの家の中間地点に位置する大きな公園だ。うちから歩いて15分ぐらいの距離で、住宅街にある。  早朝と夕方には犬の散歩をしている人が多くいて、すみれもよくクロの散歩で来ているらしい。    今回は「犬の散歩デート」だから、フランケンには犬っぽく見えるよう何度も念押ししておいた。  犬用のリードと首輪までわざわざ用意したんだ。しっかり犬として振る舞ってもらわないと、事情を知っているすみれはともかく、他の人たちを驚かせてデートが台無しになっては困る。 「今日、フランケンはただの犬だからな? 突然しゃべりだしたり、死んでみせようとするのは絶対に禁止! わかったか?」 「ワンワン!」  相変わらず犬の鳴き真似がヘタすぎる。  リードを右手に持ち、トートバッグを左肩に掛けた。  トートバッグの中には、今朝早起きして作った「天むす」が入っている。おにぎりの具材は、昨夜の残りの海老天、アスパラ天、ちくわ天だ。フランケンのスパルタ指導により、なかなか上手に作れたと思う。 「いってきます」  玄関から声をかけると、母さんが「待って!」と、タッパーを持ってやってきた。 「フルーツ詰めたから、これも持っていきなさい」  半透明のタッパーの中に、イチゴとりんごが入っているのが見える。 「フォークも入れておいたからね。じゃ、頑張るのよ!」  いや……まあ、うん……。こういうお節介が嫌なんだよとか言っちゃうと、母さんがかわいそうだよな。 「ありがとう」  タッパーを受け取り、トートバッグに入れる。 「フランケンちゃん、一樹のことよろしくね!」 「ワンワン!」  苦笑しながらもう一度いってきますと言って、家を出た。  尻尾を振り舌をぺろりと出しながら歩くフランケンは、まるっきり本物の黒柴だ。  未来の世界では、ペットがすべてAIロボットに代わっているのかもしれない。だって、病気にもならないしエサや排泄の世話も不要だ。人間の言葉を話せるようにすれば話し相手になるし、リアリティを求めるのなら本物と同じ鳴き声だけを搭載すればいい。  人間の都合だけに合わせたそんな世の中を想像して、薄ら寒くなる。   「なあ、フランケンの世界には本物の犬もいるのか?」  思わず話しかけると、フランケンは歩きながらこちらを見上げた。 「ワン!」  そうだった、しゃべるなって俺が言ったんだよな。  未来の世界を憂いた自分に対して笑いが込み上げる。  そんなことより、俺自身の心配をしないといけないっつーの! 「えらいな、引っかからなかったか!」 「ワンワン!」  へたくそな犬の鳴き真似しかできないフランケンを、不覚にもかわいいと思った。  
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