第5章 すみれとのデート

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 情けない顔を見られたくなくて、踵を返して駆け出した。  フランケンも俺の横にぴったりついて走っている。  角を曲がってさらに走り続けて、足がもつれて転んだ。アスファルトの道路に両手をついて体を起こしながら涙を流す。 「終わった……もう死にたい」 「大丈夫! あたしがカズキの身代わりになってあげる! だってあたし、死なないもん!」  あ、しまった。と気付いた時にはもう遅かった。  フランケンは見事な跳躍で走ってきた車に突っ込んでいく。  頼むからもうちょっと空気読めよ!  跳ね飛ばされるフランケンの姿に大きなため息が出る。  しかしこれが救いにもなった。  車の運転手に「うちの犬が突然飛び出してすみません」とひたすら謝り、そこからはフランケンを胸に抱えて帰った。  失恋したばかりなのになぜか笑えてきて、フランケンがそばにいてくれることがありがたい。  その夜、フランケンは明るく俺を励ましてくれた。 「世界の半分は女性だから大丈夫だよ!」 「手当たり次第にアタックしていけってことか?」 「そういう手もあるね!」  無責任なこと言うなよ。    でも、どっちみちすみれにはフラれる運命だったのだとしても、ちゃんと告白できたのだからよかったってことにしよう。  この程度で引きこもってたまるか。  むしろ、月曜日からすみれのほうが気まずい思いをするんじゃないかと、そっちのほうが心配だ。もういつもの電車には乗ってこないかもしれない。 「すみれちゃんに『大丈夫。すみれちゃんは気にしなくていいよ』って伝えたい」  フランケンが真っ黒な目でじーっと俺を見つめている。 「カズキは、やっぱりカズキだね。同じことを言うんだね」 「え? どういう意味だ?」 「あたしの飼い主だったカズキも、同じことを言ってたよ!」  フランケンのいる世界線で、清水を殴り、すみれに「サイテー」と言われて深く傷ついた俺のことを、彼女は心配してくれていたってことだろうか。 「フランケンは、元の世界ですみれちゃんに会ったことがあるのか?」 「うん! 『朝比奈君に謝りたい』って言ってたよ!」  すみれが未来で誰かと結婚して幸せに暮らす。  そんなことは聞きたくもないから、これまであえてフランケンに聞いてこなかった。  フランケンがすみれにも会ったことがあるとは、どういうことだろう。  
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