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第6章 タイムリミット
「なあ、すみれちゃんって、清水と結婚するのか?」
「しないよ! すみれちゃんは高校3年生の夏休み前に、受験勉強に専念したいからって理由で清水君と別れたんだよ」
なんだよ……じゃあ大学受験が終わった後にすみれちゃんに告白すれば、俺にだってチャンスがあったってことか。それなのに、高2の途中から引きこもった俺はそれすら知らなかったんだな?
「あたしのデータによると、初めて付き合った恋人とそのまま結婚する割合は、たったの14%だよ!」
フランケンの明るい声をどこか遠くに聞きながら、考えをめぐらす。
「じゃあ、すみれちゃんは俺の知らない男と結婚したのか」
「ちがうよ! すみれちゃんはずっと独身だったから!」
嘘だろ!?
あんなに可愛い子、男がほっとかないだろ、普通。
「すみれちゃんは、AI開発の第一人者になって、その開発チームに結婚を約束した恋人もいたの」
どうしてフランケンは、こんなにもすみれのことにまで詳しいんだろう。
ここからのフランケンの話は、驚くべき内容だった。
すみれの開発チームは、人間そっくりのAIロボットを作り出し、実用化させることに成功する。それは若者を中心に爆発的に売れ、すみれは綺麗な容姿も相まってメディアに頻繁に登場する時代の寵児となった。
しかし、それは長く続かなかった。
自分の代わりにAIに仕事や勉強を任せ、家から一歩も出なくなる若者が急増して社会問題になったという。
そうなるとすみれは、悪者扱いされ矢面に立たされた。チームでの開発だったのだから彼女だけの責任ではなかったが、世間は彼女だけを攻撃しつづけチームは解散、結婚するはずだった男も離れていき、彼女は孤立したまま表舞台から姿を消したらしい。
それ以来、ヒト型のAIロボットは製造禁止になっている。
なんてことだ。
今日、まさにすみれと話したことが、実際に未来で起こっていただなんて!
「すみれちゃんはね、最後に長い年月をかけて自分の知識と技術を全部注ぎ込んだ集大成のAIロボットを作るの。誰かのためじゃなくて、自分のために」
もしかして……。
ごくりと唾を飲み込んだ。
「フランケンを作ったのって……すみれちゃんなのか?」
「大正解!」
今日、すみれが笑顔で言った『きっとフランちゃんを作った人は、犬が大好きなんだね』という言葉が脳裏によみがえってきて、泣きそうになった。
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