第6章 タイムリミット

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 翌日、昼過ぎにようやくベッドから這い出した。  フランケンとの5日間は全部夢だったんだろうか。  いや、違う。机の上に、昨日使った赤いリードがそのまま置いてあるじゃないか。    首輪はお別れの時にフランケンが着けていたから、そのまま未来に持って帰ったのかもしれない。  向こうに戻った途端、首輪が劣化して粉々になっていたりして? もしもそうでないのだとしたら、いまごろフランケンは、朝比奈家の子孫たちに 「これ、高校生のカズキからもらったの!」 と尻尾を振りながら、得意げに赤い首輪を自慢していることだろう。 「フランケン、元の持ち主のところに帰ったから」  そう報告すると、母さんは「えっ!」と驚いて言葉を詰まらせた。ダイニングテーブルに座ってしばらく無言で新聞を読んでいると思ったら、突然顔を上げて、なんと 「本物の黒柴、飼おうかしら」 と言い始めた。  これまであんなにペットを飼うのを嫌がっていたくせに。  奇妙でおもしろい5日間だった。フランケンの残した功績は大きいと思う。 「大丈夫!」  明るい声が耳にこだまする。  わかってる、これからも強く生きるから。  夕方、すみれにスマートフォンのグループトークから個別メッセージを送った。 『昨日はありがとう。明日もいつもの電車に乗るつもりだけど、もしもすみれちゃんが嫌なら時間ずらすから言って。すみれちゃんはなにも気にしなくていいからね』  送信してから、少しためらって続きを書く。 『フランが昨日、元の持ち主のところに帰ったよ』  続けて送信すると、すぐに既読がついた。  返信してくれなくてもとりあえず読んでくれたんならそれでいいと思っていたら、驚いたことにすみれから着信がきて、慌てて応答をタップする。 「もしもし?」 『朝比奈君? あの、よかったらクロと散歩しない? ちょうどこれから散歩に行くところだったの』 「昨日の公園?」 『うん』  よくわからないが、すみれのほうから誘ってくれたんなら、返事はOKしかない。  昨日と同じ場所で待ち合わせをして通話を終えると、スマートフォンをジーンズのポケットに突っ込んでさっそく家を出た。
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