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昼休みにすみれと話ができたことで、少しホッとした。
フランケンの言っていたことが本当なら俺は今日、駅前で車に轢かれて救急搬送され、ケガはたいしたことなかったものの念のためということで3日間の入院を余儀なくされていたはずだ。
さらに週末の休みをはさんで翌週登校してみれば、すみれはもう他の男と付き合いはじめていたことになる。
そいつが俺のいない隙を狙ったのか、それとは関係なく告白しようと事前に計画していたのかは知らないが、そうはさせないぞ!
俺もすみれも部活動には所属していない。
帰りのホームルームが終わったら一緒に帰ろうって誘おう。
午後は脳内で、その声かけシミュレーションに没頭し、結局授業の内容がまったく頭に入ってこなかった。
放課後、誰よりも早く帰りの用意を終えて、すみれの席に近寄った。
すみれはまだ、女子と談笑しながらのんびり鞄に教科書をしまっている。
「すみれちゃん」
声をかけると、振り返った大きな瞳が俺の姿をとらえる。
「さっきの犬のことでさ、ちょっと力を貸してもらいたいんだけど、今日時間ある?」
授業中に何度も心の中で練習したセリフを、笑顔で淀みなく自然に言い切った。
「うん、いいよ。今日は塾もないし」
すみれは笑顔で快諾してくれた。
もちろん今日が塾の日ではないことも把握している。そして、すみれが柴犬を飼っていて、犬好きであることを踏まえた上で誘ったのだ。
じゃあねと仲のいい女子たちに笑顔で手を振り俺の隣に並ぶすみれを、眩しく思いながら見下ろした。
こんなに打算まみれの俺に囲い込まれてるだなんて、気の毒な気がしてくる。
後ろめたさがないわけではないが、しょうがないだろ。好きなんだから。
「ん?」
かわいく小首を傾げて見上げてきたすみれに、にっこり笑ってみせた。
「実はさ、昼に話した犬のことなんだけど、うちの飼い犬じゃないんだ」
偶然、犬が軽トラに轢かれたところに居合わせて、飼い主がいないようだったから自分が飼い主であるかのように振る舞った。そのまま家に連れ帰って留守番させている。
そう説明したら、すみれは両手をポンと合わせた。
「だからかぁ。朝比奈君が犬飼ってるなんて聞いたことなかったのに、犬が~って言ってたからおかしいなって思ってたの!」
かわいすぎる。
「それどころか、ちょっと……いや、かなり特殊な犬なんだけど、すみれちゃんに見てもらえないかと思ってさ」
「え?」
意味がよくわからないという表情でこっちを見上げるすみれもまた、かわいかった。
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