第2章 広沢すみれ

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「犬のAIロボット!?」 「たぶんね。俺もまだ理解が追いついてないんだけどさ」  傘を持ってこなかったというすみれと相合傘で歩くだけで、俺の心は幸福感でいっぱいだ。  制服のブレザーの袖がたまにこすれあうのが、なんだかくすぐったい。  雨は上がりかけているが、どうかこのまま降り続いてくれと心の中で祈る。 「すみれちゃん、そういうの興味あるって言ってただろ? だから見てもらおうと思って」  これは本当のことだ。  彼女はド理系のいわゆるリケジョで、将来はAIの研究者になる夢を持っている。それを知っているからこそ、正直に打ち明けたのだ。  うちの犬を見にこないかと誘っても警戒されそうだが、それが本物の犬そっくりでしかも高度な会話をスムーズにできるAIとなれば、見たくなるに違いないと。 「すごく頑丈みたいで、ゾウに踏まれても壊れないとか言ってんだよね、本人が」 「へえ、すごいね。いまから朝比奈君のおうちに行ってもいい? ぜひ会わせて!」  なんと、すみれのほうから言ってきて驚いた。 「ええっ!?」    家の近くの公園で待ってもらって、そこにフランケンを連れて行くと提案するつもりだったのだが。  よほど興味があるってことか?  それとも、あれこれ期待しちゃっていいのか!?  よからぬ妄想をしそうになって、待てよと気付く。  俺の部屋には大好きなボーカロイド・ゆららちゃんのポスターやフィギュアがたくさん飾ってある。  マズい、あれを見られたら非常にマズいぞ!  すると、すみれが慌てて両手をぶんぶん振った。 「ごめん、ずうずうしかったよね」 「ああ、そんなことないよ。ええっと……いま家に誰もいないんだけど、玄関でもいい?」  色白のすみれの頬がほんのりピンクに染まる。  いまの言い方は不自然じゃなかっただろうか……。  エセ陽キャの経験値の低さがうらめしい。実は後ろ向きな性格なもんだから、こんなハッピーでドキドキなシナリオなんて考えていなかった!  もちろん大歓迎だと咄嗟に言えたらよかったのに。  ゆららちゃんには申し訳ないが、今夜中にグッズをすべて片付けて封印しよう。
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