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魂の行方
貴方と初めて会ったのは、私が働いていた喫茶店でしたね。
大勢のお客様のうちの一人でしかなかった貴方。
丁寧に「ごちそうさまでした」と言ってくれて、良い人だとは思いましたが、それだけでは恋心は芽生えていなかったでしょう。
運命が変わったのはそのあと。
退店したばかりの貴方が、息を切らして戻ってきて、
「また会えたね」と、私に言ったとき。
私、可笑しい、と思いましたよ。
すぐに戻らないと、もう私に会えないと思ったのかしら、と。
そんなに必死にアプローチしてくる人はそれまで一人もいなかったものですから、私、すぐに貴方に興味を持ちましたよ。
「ねえ、あのときの貴方、必死でしたよね」
「だって、どうしても、もう一度会いたかったんだ」
「私は逃げませんのに」
「そんなのわからないだろ。人生は何があるかわからないんだ」
「じゃあ、今回の手術も成功しますよね?」
「それは……すまない」
「なんで諦めてしまっているの」
「諦めているわけじゃないんだ。けど、分かるんだよ、もう長くないって。だけど悲しむことは無いよ。僕の魂は、何度でも君のもとへ飛んで行くからね」
***
結局貴方は先にいってしまいましたね。
けれど私、信じています。
貴方の魂がいつもすぐ側にいることを。
私が魂になったとき、抱きあって一緒に天に昇って、生まれ変わったその先でまた巡り合えることを。
他の誰でもない貴方と、「また会えたね」と笑えることを。
***
ぱち、と目を開くように、あっさり意識が戻る。
街の喧騒、その真ん中で、僕の心臓は力強く動く。体内はエネルギーで満ちている。今なら全力で走れる、そう思うと居ても立っても居られない。冷静になる暇もなく、愛する人のもとへと駆け出す。早く会いたい。
何度も繰り返すうちに、全く同じ君じゃないことに気づいてきた。前の、その前の君とも、前の前の前の君とも、少しずつ違う。世界線が違うのか、世界が変わっているのか分からない。
けれど、また君と恋に落ちることができるのなら何だって良いのだ。
喫茶店の扉を開け放って、
僕は言う。飽きもせず、「また会えたね」と。
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