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第四話 お母さん
私が通話ボタンを押すと、パソコン画面に女の人が映った。
「お母さん! その格好。ごめん、いそがしかった?」
『蓬、ひさしぶり。大丈夫よ。今やってる実験は別に私が立ち会わなきゃいけない訳でもないし。あんなのより、家族が優先よっ!』
「あはは。あんなの、って……」
そう、この人は私のお母さん。とある研究所で野草について研究してる、植物学者なんだ!
今、お母さんは白衣を着てる。そして、いつもはハーフアップにする髪を、ひとつにひっつめてる。
実験の時の格好だったんだ。
『それにしても、どうしたの? いきなり蓬の方から連絡してくるなんて』
「それがね、今日、野草好きの子に会ったの」
お母さんは軽く目を見開いた後、冗談めかした表情になった。
『まあ、珍しい』
「ん、珍しい?」
初めてのことだよ? 珍しいとは、ちょっとちがうような……
『どうせ、野草観察中のことでしょう。蓬が野草観察中に他の人のことを気にしたなんて』
「気にせずにはいられないよ。その子、歩道に寝そべってたんだよ! 最初、倒れてるのかと思ったんだから」
『まあっ!』
お母さんはクスクス笑う。面白がられて、顔が赤くなった。
「もう!」
『ごめんごめん、それで?』
「あのね――――」
お母さんは私の話を最後まで聞いてくれた。
『ちょっと変わった子みたいだけど、蓬にお友達ができたのがわかって安心したわ』
お母さんは目を細め、私に慈しむような優しい目を向けてくれる。
『その子、名前は?』
「双葉葵ちゃん」
お母さんにとっては特に意味のない、相づちに近い質問だったんだろう。
だけど、お母さんは私の答えを聞いて凍りついた。
「どうしたの?」
『あ……いや、気にしないで。そ、それより、その子、写真好きなのよね』
「うん。とっても素敵なのを撮るんだよ。お母さんもきっと気に入ると思う」
『じゃ、じゃあ、図鑑作りでもして遊んだら? 蓬、やってみたいって前に言ってたじゃない。あ、アザミちゃんが呼んでる! ごめん、蓬。またね!』
いきなり切られた。なんか慌ててたみたいだけど、どうしたんだろ。
……でも、お母さんが最後に言ってたの、いいかも。明日、葵ちゃんに提案してみよっかな。
ビデオ通話を切り、フウと息をつく。
「双葉……まさか、ね。」
その時、アザミちゃんに呼ばれた。
「あかね〜! ゴンゾー先生のとこ行ってきて〜!」
「はあい!」
返事をし、立ち上がって歩き出す。
まあ、蓬に仲良しの子ができてるのは、いい事ね。
蓬は小さい頃から、私の影響で野草が大好きだった。
他の色々なことを体験する前から好きな物が固定されるのは、良いこととは言えない。視野がせまい人になってしまうかもしれないから。
実際、そのせいでみんなと話を合わせられずに、あの子は孤立してるみたいだった。
それも、半分くらいは私のせい。だから、蓬が気の合う子に出会えたなんて、喜びもひとしおだわ。
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