私の目に浮かび上がったすべての星

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私の目に浮かび上がったすべての星

「私が死んだら、ね。今夜みたいな星空の日に、二人でこの川へ骨を撒いてほしい」  いつも通りに静かな初夏の夜、の、はずだった。だから、突拍子も無いキズナのその言葉に驚かされる。 「それいいやん! ミライもそうしてほしい! いつかこの町から離れても、最後はここで、ここから見える星の下で、流れてたいな」  真っ白なログハウス調のキズナの家の裏を流れる天戸川は、月明かりに照らされて水面がキラキラと揺らいでいる。星々の瞬きとそのリズムがシンクロしているように見えて、私はこうして三人で川原に腰掛け、それらをじっと眺めるのが好きだった。幼い頃からこの川を見て育った二人も、きっと同じだろう。  キズナの言葉にミライがすんなり同調してからようやく、ああ、そうだな、それもいいかも、なんて思った。最初はえっ、てなっても、すぐ二人に影響されてしまう私。だけど、もはやそのことが心地いいとすら感じていた。なんだかちょっぴり気恥ずかしくて、なかなかそれを口には出せなかったけど。 「ゴールデンウィークが終わったら、また暫く入院するねん。今度は、長くなると思う」  キズナが再び口を開いた。  勝手口に年中吊るされている風鈴が揺れ、草むらではキリギリスがジー、ジー、と鳴いている。静かだと思っていた周囲から、私の鼓膜は控えめに刺激された。  キズナの病気について、詳しくは聞かされていない。でも、中学に入ってから学校へ来ることはほとんど無くなったし、ずっと入退院を繰り返している。だから、私が死んだら、なんて言われて動揺したけど、ミライの言葉でそれは中和されたかに思えた。だけど……。 「退院したら、また遊びに来ていい?」  少しだけ間を置いてから、ミライは水面に小石を投げながら言った。 「うん。来て。ツムギもね」  真っ直ぐに伸びた黒髪から透き通るように白い横顔を覗かせ、幾千の星をじっと仰ぐキズナの言葉に、私は、心配な気持ちを隠すように笑った。 「……もちろん。その時は、三人で花火しよ」  夏が終わる前にキズナが帰って来てくれるようにと、願いを込めて。
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