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芥川龍之介。太宰治。三島由紀夫。川端康成。私は、小説を生業にしようなどと恐れ多い大それたことを考えていた頃、彼らの最期について知った。一体、幾多の文豪達が自ら命を落としたのだろう。いや、それだけに限らない。数多の芸術家達が、数多の名もなき人々が、その尊き命に自ら区切りをつけてきた先に、今、私の命が存在している。望まぬ形で命を落としていった人々もまた、数多、数多……。
母さん。私、書くのを続けてみる。ミライが、そう勧めてくれたから。キズナも、きっとそれがいいと言ってくれたから。
最後にキズナと二人で見た天戸川からの夜空の星々は、きっと永遠に私の心に焼き付いたままだろう。
私の目に浮かび上がった全ての星。
私はそれらを想いながら、自室で再びペンを執った。正確には、PCの電源を入れた。この情熱が、衝動が、嘆きが、希望が、いつか、いつか燃え尽きるとしても。
本当は怖い。だけど、誰かに伝えたい。届けたい。
今はただ。今は、ただ。未来を信じて。書く。私には、その使命があるような気がしていた。
「また大変痛ましい事件が起きました。高校陸上競技界で名門と言われる部の寮内で、17歳の少年が階段で首を吊っているのが先週未明発見されました。少年は同級生や後輩から日常的におかま、ゲイ、などと暴言、また暴行を受けていたことが、周辺の生徒からの証言でわかっています。事件の数日前も、顧問には練習中の怪我と報告されていましたが、集団暴行による負傷だったとの疑いが持たれています。少年は小学生の時に性同一性障害と診断されていましたが、小中学校では保護者と周囲の友人達の理解、学校の協力によって服装や行動も女性として振る舞うことが日常的となっており、当時を知る関係者によると、少年は活発で明るく、地元愛の強い人見知りしない性格だったということです。……それでは、次のニュースです」
—了—
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