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山盛りのお稲荷さんが皿に載っていた。
「たんとおあがり」
じわっと涙がにじむ。
「?」なんで涙? 自分でも何だかわからない。
涙を拭きつつグシッと洟をすすって、お稲荷さんをほおばる。
「おばあちゃん、おいしい」
「そーかい、そーかい、まだいっぱいあるよ」
おばあちゃんはお稲荷さんに手を付けず、ただにこにこわたしを見ている。
ごほっとむせると、すかさずオレンジジュースを出してくれる。
あわてて飲むと、
「あ…あまーい」
悶絶する甘さだ。
大人になってからあんまり甘い飲み物を飲まなくなったせいで、余計そう感じるのかも。
栓を開けられたビンを見て驚いた。
「えっ、このジュース、もう売ってないんじゃないの? なつかしい」
「なつかしいだろ? ……でも、これでおしまい」
言っておばあちゃんは、よいしょと立ち上がる。
「カナメ、また会えて、おばあちゃん、ほんとにうれしかったよ。でも、もうお帰り」
外はもうまっ暗だ。
「わたし、今日は泊まっていくつもりで」
おばあちゃんは無言で首を振り、思わず立ち上がったわたしの背を強く押す。
チロが縁側に近寄ってきた。
「じゃ、チロ、帰ろうか」
仕方なく呼びかけると、チロは鼻頭にシワを寄せた。
「ウーッ」
「チロ?」
チロがわたしに向かって威嚇したことなんて一度もない。
「どうしたの? チロ?」
「ウーッ、ワンワンッ、ワンワンッ」
激しく吠え立てるチロに、わたしはどうしていいかわからない。
「チロ……」
わたしは庭に下り、吠えるチロを横目に一人とぼとぼ歩いていくしかなかった。
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