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「えっと、わ、私、廻谷梨心っていいます。難しい“まわる”の“廻”に“たに”で廻谷、果物の梨に心で梨心です。」
「私は水都垂雨といいます。『水の、都に、垂れる、雨』で水都垂雨。よろしくお願いします、梨心さん。」
「はいっ、よ、よろしくお願いします!」
二人用の部屋には当然ベッドが二つあり、梨心と垂雨は互いのベッド腰掛け、向かい合って座っていた。
「えと、ありがとうございます。片付け手伝ってもらっちゃって……助かりました。」
「いいですよ、お礼なんて。」
梨心が部屋に着いたときにはもう既に垂雨の荷物の片付けは殆ど終わっていた。梨心よりまあまあ早く到着したようだし、何より持ち込んだ物の絶対量が少なかった。そのため垂雨は梨心の分の段ボールの山を崩すのをかなり手伝ってくれたのだ。
名乗っている間も、梨心は眼前に腰掛ける垂雨と名乗った女神の身体が気になってしょうがなかった。グレーの長袖シャツと黒のジーンズというシンプルな部屋着姿だが、だからこそ優れたスタイルが目立つ。四肢が長い。太ももの上で組んだ両手指の白さ。そして昨夜のホテルのお風呂ではつけていなかった、大きな黒縁メガネをかけていた。
自分の冴えないスタイルと比べてすごすぎる。女優さんみたい。ただ対面に座っているだけなのに梨心はなんとなく小さくなってしまう。
「梨心さんは———」
「は、はいっっっ!!!なんでしょう!!?」
「……梨心さんは、どこ出身?」
「あっえっえっと、○○県です。」
「ふぅん……行ったことないですね……私は□□からです。まぁ、この年齢なので、行ったことないところの方が多いですね。」
あっぶなーい、身体中じろじろ見てんのバレたかと思ったー。焦って声量を調整できなくなる。
初対面で相手の体形についてあれこれ言うのは良くないとは思うが、確かに昨日こちらは目撃しているのにそれを言わないのもなんだか後ろめたい。
「垂雨さん、昨日Yホテルにいましたよね……私、昨日の夜あなたを見たんですよ。」
言うことにした。
「へぇ、どこで見たんですか?」
「えっとそれはその、お風呂で。」
「……あーお風呂か。ごめんなさい、見えてなかったと思う。ほら、私御覧の通り目が悪くて、お風呂だと眼鏡外すからほとんど何も見えないんです。しかも湯気もすごかったし。」
「そ、そうですか。」
初対面の人と同じ部屋で会話。緊張してあまりうまく話せなかったが、垂雨のゆったりとした雰囲気のおかげで何とか話すことができた気がする。内容は兎も角として。
始業式は午後からだが、今日は寮の食堂が夜からの営業であるため昼食は各自で用意するように通達されていた。梨心と垂雨は部屋で一緒に昼食を食べることにした。梨心はあらかじめ買っておいたおにぎりで、垂雨はサンドイッチだった。
垂雨さんは食べててもなぜか絵になる。梨心はサンドイッチを食べる垂雨を眺めながらもそもそとおにぎりを食べた。なんでも自作のサンドイッチで、昨日のうちに材料を買っておいて今朝ホテルで早起きして作ってきたそうだ。おしゃれだ。
食べ終わって、
「それじゃ、そろそろ行きましょうか、梨心さん。」
「そうですね。」
二人で学校へ繰り出す。すでに寮の廊下や学校へ続く道、校内は生徒でいっぱいだった。様子も十人十色だ。見るからに緊張している者、めっちゃコミュ力あって誰にでも話しかける者、すでにグループを作り固まっている者……。
教室へ行き担任から挨拶を受ける。式での整列の仕方だけ適当に確認しすぐ式に向かうようだった。クラスの自己紹介は後らしい。
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