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「づ、疲れたぁーーーー~~~~……。」
部屋に帰るなり、梨心はベッドに倒れこんだ。もう夜九時である。
「お疲れ様。」
垂雨も自分のベッドに腰掛け息をつく。
今日はハードな一日だった。始業式の後はクラスに戻り自己紹介、クラスルームでは学校のなんたるかの説明をたくさん受け、寮に戻ったら入寮式。寮規則や各施設の説明をたっぷり習った。その後はウェルカムパーティーを兼ねた夕食会だ。アイスブレイクや先輩たちからの学校紹介、年中行事の紹介、部活紹介もあった。クラスメイトや他の生徒たちと話をできたのは楽しかったが……。
「なんか皆さん、コミュニケーション能力高すぎません?あんなにハツラツと喋れて、流暢に……自己紹介とかも上手で……私だけずっとごにょごにょしてて、全然うまくしゃべれなかったです……。」
梨心は自分の低いコミュ力を思い返して枕に顔をうずめる。
「悲観することないですよ梨心さん。新入生はみんな友達ができるかどうか不安なものです。」
「そうなんですか……?」
「この時期の新入生はみんな、互いの社交力を高く見積もってしまいがちです。それで、普段の自分以上の会話力を発揮するんです。友達を作れるか心配ですから。なので梨心さんがうまく話せなかったと感じても心配することはありませんよ。ほかの皆もそう思っていますから。」
「そうなんですか……うぅ……でも、友達できるか心配ですよぅ……。」
梨心はまた枕に顔をうずめる。
「ふふっ。」
垂雨がくすりと笑う。
「………………?」
「いえ……。私も、梨心さんと同じで、周りになじめるか心配だったものですから。同じ悩みを持っていると知ってちょっと安心しました。」
「そ、そうなんですか。」
意外だった。式中もパーティー中も、垂雨さんはずっと落ち着いているように見えた。すまして立っていて、話しかけられると上品に微笑む。一年生の中に一人だけ上級生が混じっているかのようだった。
「それに……私はもう、あなたの友達ですから。あなたに友達ができなかったわけではありあせんよ。」
「…………、…………!」
その言葉に、はっとした。
今日あった、いくつかの新入生と交流する機会で、梨心はずっと緊張していたし、焦っていた。友達ができなかったらどうしようと。頑張っていろいろな人とコミュニケーションをとろうとして、うまくいかなくて、もっと焦って。でも、友達なんて「なろう」でなるものではない。気が付いたらなっているものなのだ。いま同じ部屋にいる二人のように。
「とも、だち……私たち、友達ですか……?」
「決まっているじゃないですか。」
垂雨が澄ました顔で言う。恥ずかしげもなく。当然といった感じで。
「そっか……私たち……ともだちかぁ……えへへ。なんだか私も安心しました」
梨心はほっとしたように笑う。
垂雨から見ても梨心は今日一日中ずっと肩に力が入っていた。やはり新生活になじめるかが相当心配だったのだろう。他の生徒たちもイベントを楽しんでいたがやはりどこか緊張している者もちらほらいた。実際すましていたが、垂雨も周囲の動きを見るのに徹していたためかなり疲れていた。部屋に帰ってきて梨心と二人になった途端にとても安堵したのだ。
ベッドに寝転がりながら安堵して微笑む梨心はとてもかわいらしくて、なんだか輝いて見えて……。
いや、現に輝いていた。笑顔が。比喩ではなく。
「……?梨心さん……その光は……?」
「?……ああこれはですね、私、光の魔法を使えるんですけど、そのー、自分から魔法を使おうとしてないときでも、うれしかったり可笑しかったりすると勝手に出てきちゃうんですよね……光が……今も出てました?」
「はい、燦然と。」
「あはは……感情垂れ流しなのではしたないから止めたいんですけどね……なかなかうれしいときに意識して止めるのは難しくて……。」
「止めなくてもいいと思いますよ。とてもかわいらしいです。」
垂雨が微笑んで言う。また恥ずかしげもなく。
「か、かわいらしいなんて……うー、なんだか恥ずかしいです……あはは……。」
言われ慣れていないことを言われてしまい無性に照れてしまう。しかし笑みとあふれ出る光の魔法を止めることはできなかった。
「じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
それぞれ床に着き、電気を消す。
不安は尽きたわけではない。しかし大部分は解消された気分だった。
まずは穏やかに話せる相手ができただけでも大きな進歩だろう。そう思って梨心は一日を終えたのだった。
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