17話:再臨を望んで

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17話:再臨を望んで

 事が起こる前兆とは概して、その本質とはかけ離れたものだ。  予兆から未来を予測することは不可能に近い。その実、その前兆と事件とは実際のところ何の関係も無いのだから。  つまり、全てが手遅れになった後に、あれが予兆だったのかと、事件の当事者が不自然に合理化を計ることで、事後的に“前兆”が定義されるということだ。  だから梨心はその日の朝に何も不穏を感じることなど無かった。事実不穏でも何でもない普通の朝だったのだから。ただ、いつもより乾燥した日だと、少し思っただけだ。  夏だというのに妙に乾いた空気だ。保湿を怠ったら目の縁から顔の皮が裂けてしまう気がした。特に砂の舞うグラウンドは水分を感じなく、大地を割ってまで伸びている雑草も心なしか生気に欠ける。 「おはよ~ロアちゃん……暑いね。」 「こんにちは梨心、確かに今日の気温は中々だ。」  スタジオに入ってロアに合流する。ロアはもう着替えていた。  重ねて、梨心はロアの様子にほんのわずかな、わずかと言うには小さすぎるようなレベルの、違和感を見止めた。しかしそれは、わずか過ぎて具体的に言語化はできなかった。 「あと二週間足らずで本番。暑さに負けず気合入れていこう。」 「うん!」  練習が始まる。毎日のことだった。本番で演じる二曲はいずれも難易度が高く、細かく確認したいパートが尽きることは無い。いくらでもやることがあった。進捗は遅遅。それでも二人は確実に進んでいた。  この日までは。 「ロアちゃん?」  練習の合間、梨心は棒立ちしているロアに声を掛ける。青い瞳が無を捉えていた。ロアは何もないときでも腕を組んで仁王立ちのような姿勢をしていることが多いので、こうも弛緩してボーっとしていることは珍しかった。 「……梨心?どうした?」  一拍遅れて、ロアが返事をする。 「何かその、大丈夫?おなか減った?」 「いや、問題無いよ。でも確かに、ちょっと疲れたかも———」  瞬間、ロアの碧眼に魔力が満ちてわずかに発火する。 「梨心!危ない!私から離れて!」 「えっロアちゃ———うわぁ!!!」  ロアが、爆発した。
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