「つま先に火をつけて」

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貴方は、私と同じ女の子だった。しっかり者で少しだけ泣き虫で。雑貨ショップで初めて貴方を見た時、私の心を捉えて離さなかった。「一緒にいよう」とそう優しく話し掛けられた気がしたの。誰にも選ばれない私を選んでくれたと思ったの。貴方しか私を愛してくれないと思っていたの。私が人を好きになるなんて、思わなかったの。そういう生き方をずっと選んできたから。それが寂しいとも思わなかったの。疑いもしなかった。 でも、心さんを見た時、心に陽が射した気がしたの。照らされて、わたしのいちばんが何か知ってしまった。 この人が、いちばんになると。素直に心が言っていた。生まれてきた意味が分からなかった私が、初めて知った。この人に出会うために、ずっと生きてきたんだと。手が届くなら、この人にただ触れたいと思った。 小さな言葉で喜んで、すぐに不安になるのに。少しだけ一緒に居ただけなのに、ぬくもりがすとんと深く胸に落ちて、深く息が出来た。手が届く所に心さんが居て、それがどんなに幸福なのか、心が狂おしく震えた。 二人になる事がこんなにも幸せで、嬉しくて、切ないなんて。初めて知った。もう一人ではいられないと、知ってしまった。昨日までは平気だったのに、今日この夜を初めて不安に思う。心さんのぬくもりを、ただ思い出す。なぞるみたいに、言葉の一つ一つを。優しい目を。掌の形や、その奥に震える心臓を愛しく思う。 …まだ知らない事がたくさんあるのに、優しくただ私の心を打っている。これが人を愛する事だと。 「…ありがとう、ありがとう。ずっとありがとう。」 貴方が今まで居てくれたから、ずっと傍に居てくれたから、私は今まで生きてこれたんだ。愛がなくても。 ずっと一人ぼっちの私を静かに支えてくれた。貴方が居たから、私は心さんに出会えた。貴方を好きになる事がなければ、あの雑貨ショップに貴方が居なければ、足を止める事もなく、きっとずっと透明だった。 深く深く抱き締める。ありがとうと何度も呟きながら、貴方のぬくもりをずっと覚えておこうと思った。 …今日は、初めて一人が二人になったよ。それが嬉しくて、嬉しくて、こんなにも涙が零れ落ちていく。 貴方が繋いでくれた。糸のように、私と心さんを繋いでくれた。今日この日に繋げてくれたの。奇跡のように。 人が人を愛する事は当たり前かもしれない。でもその言葉を知っていても、それほどに想う人はいなかった。 父と母に愛はなかった。それでも、私は生まれてきた。人間として。家族の形を繕われながら、隣に居るだけだった。隣にいるこの人達は何なんだろう。私を娘と呼びながら、近づく事もなく、離れたままでいる。 互いの好きなものや嫌いなものも知らない。そんな話をした事もない。話しかけない。あの人達も、私も。 それは歪で、いつ壊れてもおかしくなかった。だから、透明である事選んだかもしれない。自分から。 「特別」を貰えなくても。誰からも貰えなくても。私は生きていける。上手く生きれなくても、振りは出来る。 誰かに嫌な事を押し付けられて、泣けなくても。怒れなくても。不自由でも、生きていける。生きるだけで。 私は、きっとずっと寂しかった。言葉にする事も出来ず、臆して、自分の心の奥深くに隠していた。
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