Day.17

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Day.17

 クイーン・オブ・ザ・シーズの最上部に位置するヘリポートには、そわそわと落ち着きのないフレデリックと、それを眺めて呆れた顔をしているヴァレリーがヘリの到着を待っていた。 「っ――、遅い!」  フレデリックの堪りかねた叫びが、海風に攫われていく。今にも地団駄を踏み出しそうなその様子に、ヴァレリーは苦笑を漏らした。 「いい加減落ち着いたらどうだ。戦闘機じゃあるまいし、そうすぐに着くはずがないだろう」  黙って立っていれば、制服を纏った男前のフレデリックだ。が、辰巳が絡むとどうしようもなく我儘になるのだから困ったものである。誰に対するでもなく肩を竦め、ヴァレリーは溜息を吐いた。とんだお守りを押し付けられたものだと。  クリストファーはといえば、もちろん仕事である。マイケルも、フレデリックが持ち場を離れるにあたりブリッジでの作業があるという。ロイクに至っては本人が嫌がるだろうからと言われてしまえばどうしようもない。 「まさかあの女狐、辰巳に手を出してはいないだろうね……」 「手を出すのはどう考えても辰巳の方だろうよ」  呆れたように言うヴァレリーを、フレデリックがじろりと睨む。 「辰巳が僕以外に手を出すとでも!?」 「女に誘われたら話は別だろう?」 「えっ?」  盲点だとでもいうような顔をするフレデリックに、ヴァレリーは呆れ果てた。 「というか、女にまで嫉妬するのか? 嫁が居るんだろう?」 「雪乃(ゆきの)は、書類上の関係であって、匡成のお嫁さんだよ」 「どういうことだ」 「まあほら、辰巳に後継者がいるかって話をしたじゃないか。その子の母親が、雪乃というわけだよ」 「それと匡成がどう関係する」 「何というか、元々は匡成が再婚する予定だったんだけれど、雪人がほら、あんな性格だろう? だから、書類上は辰巳が結婚したというわけだね」  一哉もまあ、辰巳の後継者ではあるしと、フレデリックが告げればヴァレリーは首を傾げた。 「よくわからんな」 「ともかく、雪乃はあくまでも書類上だけの関係であって、辰巳のお嫁さんは僕だからね」 「分かった分かった。つまりお前は、辰巳が女を抱くのも許せないって事だな」 「僕の心が狭いとでも!?」 「さぁな。ともあれ、誘われれば手を出すのが男って生き物だろうよ」  さらりと告げるヴァレリーを睨んでみるものの、確かに辰巳は誘われれば女くらい平気で抱いてしまいそうではある。否、ただの性欲処理だと思えば悪びれもしないかもしれない。 「……まさか…」 「まあ、あの女を遣ったお前が悪い」  ヴァレリーの口振りはまるで、ヴァレンティーナが必ず手を出すと決めつけているようでもあった。それが、フレデリックには気に入らない。 「だいたいお前、女に恥をかかせるような男が好きなのか? だとしたら趣味が悪いぞ」 「んなっ! いったいキミはどっちの味方なのかな!」 「そりゃあ女に決まってるだろう」  何を言うんだとばかりに顔を顰められ、フレデリックは二の句が継げなくなった。 「どうやら僕はキミを誤解していたようだ……」 「今さら何を言ってる。お前が見ている俺が、すべてだとでも?」  今度こそ本気で呆れた顔を向けられて、フレデリックは歯噛みした。と、遠方から微かに回転翼(ローター)の音が聞こえ、ふたりの視線がそちらへと吸い寄せられる。 「まあ、お前にひとつアドバイスをやろう、フレッド」 「一応聞いておいてあげるよ」 「お前さえ黙っていれば、誰も恥をかく事はない」  もし、辰巳がヴァレンティーナを断っていたのなら、ヴァレンティーナが。辰巳が誘惑に負けていたのだとしたら、辰巳が恥をかくだろうと、ヴァレリーはそう言った。 「僕の気持ちはどうでもいいと?」 「そりゃあお前、好きなように思い込めばいいだろう。恥をかかせずにいてやってるんだ、とな」  次第に大きくなる羽音に紛れ、ヴァレリーは高らかに笑ってみせた。
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