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「あなたの戯言に付き合っていたら、私の身がもたんな。あなたの心は私のもので、私の心もまた、あなた以外に渡すつもりはない。それのどこが不満だ?」
「何も。君ほど最高なパートナーを僕は知らないよ」
「なら、少しは妄言を慎んでくれ。それだけで私の心労は九割削減される」
心労の殆どがロイクのせいだと言い切るハーヴィーに、本人はだが反省の色もない。それどころか、ハーヴィーへと纏わりつく始末である。
すっかり存在を忘れられたガブリエルとロランは、互いに顔を見合わせた。見慣れた遣り取りが、ささくれ立った気持ちを穏やかにしてくれる。
「相変わらず仲が良いことで」
「私も、ハーヴィーのように自信がもてるといいのですがね」
「うーん。さすがに、あそこまで自信持たれても俺が困っちゃうから、ほどほどにね」
ロランの目標として据えるには、確かにハーヴィー・エドワーズという男は適任だろう。当人も明言している通り、ハーヴィーもまた頭脳労働専門だ。ロランとの相性も、悪くないと、そう思う。
フランス人でもないのにフランスマフィアという肩書を背負い、メイドメンバーに名を連ねるほどの手腕と豪胆さは、ガブリエルでなくとも感嘆に値する。
「けどまあ、目標というか、ロランの目指す方向性は、ハーヴィーなんじゃない?」
「身近なところにモデルがいるのは、ありがたいですね」
「ロランが俺を困らせる日を、楽しみにしてるから」
「それは、私がロイを困らせているという意味か? ガブリエル」
「ッ……!」
唐突に耳に流れ込んだ声に、ガブリエルはロランにだけ見えるように片目を瞑ってみせた。
「えっと、そういう訳では……」
「私には、そう聞こえたが?」
「俺は、ロイほど自信家じゃないからね。ハーヴィーみたいに心労の九割が自分のせいとか言われたら、反省するなって、そう思って?」
「まったく……。こそこそと人をダシにするのはやめろ、鬱陶しい」
「はぁい」
四人は同じメイドメンバーという立場ながらも、ロイクやハーヴィーが相手となれば、ガブリエルとて歯向かえる筈もない。
大人しく返事をするガブリエルを呆れた顔でハーヴィーは眺めた。だが、その視線はすぐにロランへと向けられる。
「だいたいロラン、あなたもあなただ。腑抜けるのがガブリエルではなくあなたの方では困る」
「はい」
「内情はどうあれ、メイドメンバーとしてあなたと私は対等な立場にあると思っている。そもそもあなたは、表向きとしても医療班の主任だろう。私やロイと何ら立場は変わらないし、目標だ何だとへりくだるのはよせ。その考え方があなたを卑屈にしている原因だ」
ハーヴィーがそう言い切れば、どこからともなく口笛の音が部屋に響いた。四人の視線が、一斉にドアへと向けられる。
「おっと、そんなに注目させるつもりじゃなかったんだが」
大袈裟に肩を竦めて部屋へと入ってきたのは、他でもないクリストファーだった。
「あまりにも良い啖呵だったもので、ついな」
「やめろ、こちらが恥ずかしくなる」
「ははっ。俺は、お前のそういうはっきりしたところは嫌いじゃない」
ハーヴィーの肩を軽く叩いたクリストファーは、ガブリエルの目の前で足を止めた。否、ガブリエルの腕に抱かれたロランの目の前に、だ。
「なあロラン、そろそろ、ケジメをつけないか。俺としては、お前とガブリエルが付き合う事に反対はしない。その上で、このままファミリーに残るか、離脱するか決めろ」
「っ、クリストファー……、あなたは……」
クリストファーの表情はまるで能面のようだった。この世のすべてを諦めたようなその顔を、ロランはよく知っている。
「待てよクリス! 離脱ってどういうことだよ!」
「黙れ。俺はお前に聞いてるんじゃない」
すっと動かされた視線に、ガブリエルの背筋を冷たいものが這い上がる。気を抜けば呼吸さえも忘れてしまいそうな威圧感に、ガブリエルは息を呑んだ。
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