Day.20

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 フレデリックとハーヴィーが、メディカルセンターへと到着したのは奇しくも同じタイミングであった。進行方向からやってくる互いを認め、どちらともなく苦笑を漏らす。 「手間をかけてすまんな」 「キミも、苦労が絶えないね」  受付のスタッフは、何を告げなくとも二人を処置室へと案内した。部屋の中には、リチャードの他に、セキュリティースタッフが二名ベッドの横に立っている。その目の前のベッドに、アレハンドロは寝かされていた。 「総支配人……」 「お疲れ様、リチャード。手間をかけてすまなかったな。君は、仕事に戻ってくれ」 「分かりました。担当区画の調整はジョナサンが対応中です。あとで確認してください。それからアレハンドロですが、興奮していたようだったのでドクターが麻酔を打っていきました。担当は、ブルーノ医師です」 「分かった。ありがとう」 「では、私はこれで」  短い遣り取りを終えると、リチャードはすぐさま処置室を出て行った。  ちょうど、リチャードと入れ替わるようにロイクが姿を現した。処置室へと入るなりスタッフを追い出してしまうロイクに不穏な空気を感じたのか、気遣わし気な視線を投げたハーヴィーがすぐ隣に立つ。  フレデリックとはまた別の意味で、ロイクがアレハンドロを()()()()()として判断している事は明白である。知る由もなく彼は、組織で”死神”と呼ばれる三人を同時に敵に回してしまった。 「やあハーヴィー、君から僕の所へ来てくれるなんて嬉しいね」 「頼むから妙な事はしないでくれ。これ以上のトラブルは御免だ」 「妙な事とは?」  小首を傾げるロイクの口許には笑みが浮かんでいる。けれども、その目が笑っていなかった。 「アレハンドロに、指一本触れないと約束して欲しい」 「良いよ。約束しよう」  ことのほかあっさりと返されたロイクの返事を、鵜呑みにしていいものか迷う。だが、本人が約束するというものを疑うのもハーヴィーには憚られた。 「それなら良いが……」  いまいち釈然としない気持ちを抱え、ハーヴィーは静かに眠るアレハンドロを見下ろした。  こうして寝ている姿からは、彼がロランに詰め寄ったというのも信じられないくらいだ。だが、現場に居合わせたクルーの話を聞けば、アレハンドロは相当激高し、()()()()()()()()()()()()()という。  ロランが抱えている病気をハーヴィーが知ったのは最近だ。同じ船のクルーとは言え、ホテルスタッフとメディカルスタッフでは、顔を合わせる機会は皆無といっていい。たとえアレハンドロが診察を受けていたとしても、ロランにとっては毎日のように訪れる患者の中の一人でしかなかっただろう。そんな男に詰め寄られれば、ロランが怯えるのも無理はない。  トンと肩に手を置かれ、ハーヴィーが視線をあげる。そこには、顔を曇らせたフレデリックが立っていた。 「大丈夫かい?」 「フレッド……」 「キミは、少し責任感の強いところがあるからね。キャプテンとしてはとても有り難いことだけれど、友人としては心配にもなるよ」 「私は大丈夫だ」  ロイクの耳にも聞こえるよう、ハーヴィーは告げた。もし、ロイクがアレハンドロに手を掛けるとしたら、彼がハーヴィーの部下であるというその一点に他ならない。或いはロイク自身、船上でのトラブルの処理が面倒だという理由も皆無ではないかもしれないが、さすがにそれだけの理由で人ひとりを手に掛けようとは思わないはずだ。  ちらりとハーヴィーが視線を向ければ、ロイクは壁に寄り掛かるようにして部屋の片隅に立っていた。  ――このまま、何事もなければ良いんだが。  ロイクとフレデリックの思考が過激な方向に向く可能性を思い、ハーヴィーは小さく息を吐いた。  と、不意にノックの音とともに処置室の扉が開いた。入ってきたのは、先ほどリチャードが告げた担当のブルーノ医師だ。彼の後ろには、看護師が一人付き添っている。 「ああ、キャプテンまでお揃いでしたか。今回は災難でしたね」 「本当にね。まさか我が家でこんな馬鹿げた事件が起こるなんて、僕も予想していなかったよ」
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