Day.21

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「ロイクも、きっと迷ったのではないでしょうか」 「そうかもしれない。何の証拠も持たない私を、騙し続ける事は容易かったはずだ」 「それが余計にあなたの負担になってしまった?」 「身勝手な奴だろう?」 「そんな事はありませんよ。あなたは現に、今こうしてそれを乗り越えようとなさっている。()()の事ではありません」  穏やかなロランの声は、不思議とハーヴィーに安心感をもたらした。 「迷うことは、誰にでもあります。それでもあなたの目は、現実から逸れてはいない。それはきっと、ロイクにもわかっていると思います」  きっと、ロランの言うことは間違ってはいないのだろう。時間が欲しいと、そう言ったハーヴィーをロイクは一言も責めはしなかった。ロイク自身、傷つかなかったはずはないのに、だ。 「それに、本音を言わせてもらえば、ロイクも少々短絡的というか……、すぐに手を出してしまう辺りが浅はかというか……」  幾分か砕けた雰囲気のロランは、呆れたような笑みが浮かべながら言葉を続けた。 「彼の方こそ、あなたに知って欲しかったのかもしれませんね」 「私を試したくなったと?」 「あなたからすればそう思えるかもしれませんが、私が言いたいのは、少しニュアンスが違います」  どう説明したものかと、しばし考え込むそぶりを見せるロランにハーヴィーは頷いた。 「なるほど。あなたはロイが私を信用していると言いたいのだな?」 「あなたなら、受け入れてくださると、そう思ったのではないかと」  もし、ロランの言う通りなのだとしたら、ロイクは今ごろ自分に呆れてでもいるだろうか。そう考えかけて、ハーヴィーはだが自身の考えを否定した。  空になったカップをテーブルに置いて、立ち上がる。 「ご馳走様。あなたと話せて良かった」 「少しはお役に立てると良いのですが」 「充分だ。あなたのおかげで気持ちが整理できた気がするよ。ありがとう、ロラン」  部屋主に見送られてロランの部屋を後にしたハーヴィーは、その足でロイクの部屋へと向かった。  まだ、完全に気持ちに整理がついた訳ではない。けれども、今の気持ちを早くロイクに伝えたかった。  通い慣れた部屋のドアをノックする。扉は、すぐに開いた。ドアノブに手を掛けたままのロイクはまるで、ハーヴィーを拒んでいるかのように思えた。 「あなたに話がある。入っても?」 「構わないよ」  どうぞと、ようやく道を開けるロイクの前をハーヴィーが通り過ぎようとした瞬間、逞しい腕に肩を引き寄せられる。あっという間に、ハーヴィーはロイクの胸に抱き締められていた。 「ッ、ロイ?」 「もう、来てくれないかと思った」 「馬鹿な。私は考える時間が欲しかっただけだ」  些か息苦しさを感じながらもハーヴィーはそっとロイクの腰へとその手を回した。 「私が、あなたを手放すとでも思ったのか?」 「君がそうしたいと思っても、仕方のないことをした自覚はあるよ」 「私はあなたを責めたくてここに来た訳じゃない。あなたに、謝りたかった」 「ハーヴィー……」 「動揺がないと言えば嘘になる。だが、あなたを嫌いになった訳じゃないんだ、ロイ。どんな理由であったにせよ、あなたを不安にさせてしまってすまなかった」  いつもより力強い腕の力が、ロイクの気持ちを伝えてくるようだった。恋人の大きな躰を、ハーヴィーは強く抱き締める。 「私は、あなたから逃げたりしない」 「本当に?」  僅かに上擦ったロイクの声に、ハーヴィーは羞恥が込み上げるのを感じた。 「……はやまった気は、しなくもない…」 「それは、それだけ僕を放っておけなかったという事?」  そう言ったロイクの腕にさらに力が入り、ハーヴィーは慌てた。息が、詰まる。 「ッ、苦しい……っ、ロイッ」 「っああ、ごめんごめん」  パッと両手をあげるロイクを睨み、ハーヴィーは溜息を吐いた。 「まったく、私を殺すつもりか?」 「君が、僕を喜ばせるからつい」  そっと頬を辿る手が頤を持ち上げる。遠慮がちに落とされる口付けを、ハーヴィーは黙って受け入れた。合わせられた唇が深く吐息を貪る。僅かな息苦しさに全身が熱を帯びた。 「ん……っ、ロイ……」 「優しい僕のハーヴィー。愛してる……」 「わ、たしも……」  すぐ目の前にあるロイクのシャツを、ハーヴィーはきゅっと掴んだ。そうしていないと、床に座り込んでしまいそうだ。 「おかえり。僕の愛しいひと(ハーヴィー)」  穏やかな声とともに、ふわりと浮遊感が全身を包み込む。ハーヴィーの躰は、軽々とロイクの腕に抱えあげられていた。
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