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ハーヴィーは、腕に嵌めた時計へと視線を落とした。勤務時間までは、まだ余裕がある。
「どうしたら、あなたは機嫌を直してくれるんだ?」
「僕は、男だよ」
「なるほど。即物的で、まったくもってあなたらしい」
ふわりと笑みを浮かべたハーヴィーは、ロイクを寝台へと押し倒した。抵抗もなく仰向けに転がる恋人の上へとのしあがる。シャツのボタンへと手を掛ければ、ふっとロイクの目が眩しそうに眇められた。
「今日は君が、エスコートしてくれるのかな?」
「あなたが機嫌を直してくれるなら」
「後悔しないかい?」
「……お手柔らかに願いたいところだな」
楽しそうな笑みを浮かべるロイクにハーヴィーは溜息とともに囁いた。あまり、期待を持たれても困る。
露わになった胸元の傷跡へと引き寄せられるように、ハーヴィーは口付けた。浅く隆起した曲線を舌先で辿れば、節の高い指が髪を撫でていく。
「ハーヴィー」
名を呼びながらついと持ち上げられた頤に、ハーヴィーは誘われるままロイクの唇を啄んだ。
「っ、ん……ロイ……」
長い口付けの後、ハーヴィーはロイクの上で躰を起こした。このままでは、制服が皺になってしまう。
ジャケットのボタンを外し、脱ぎ捨てる。ロイクの視線が気にならない訳ではなかったが、この後の仕事の事を考えれば脱がない訳にもいかなかった。
「とても良い眺めだね」
「悪趣味な感想など聞きたくない」
「悪趣味とは酷いね。恋人のそんな姿を見て、誘惑されない男がいるとでも?」
悪びれもせず告げられる言葉に羞恥が込み上げる。僅かに熱を帯びた顔を、ハーヴィーはふいと背けた。
「改まって言われると照れるだろう……?」
「いつだって僕は、君に誘惑されてるよ」
止まる気配のないロイクの口を、さっさとシャツを脱ぎ捨てたハーヴィーは己のそれで塞いだ。いつまでも自由にさせておいては、こちらが恥ずかしくて堪らない。
「少しは黙れ」
こつりと額をぶつけて言えば、ロイクはくすくすと声をあげて笑った。ウエストを辿る大きな手を取り、口付ける。
「それ以上馬鹿な事を言ってみろ、二度とあなたとは寝ないからな」
「仕方がないから大人しくしているよ」
「賢明な判断だ」
ちゅっと、水音をたてて掌へと口付けて、ハーヴィーはロイクの上へと倒れ込んだ。引き締まった腹筋をを辿り、ゆるく勃ちあがった雄芯を唇で食む。
「っ……ハーヴィー…」
吐息とともに吐き出された声に誘われるように、ハーヴィーは熱の塊を深く咥えこんだ。口の中で、ひくりと震えながら質量を増すそれが、何よりも愛おしい。
「ぅ、ん……くッ」
口腔に含んだ熱は、あっという間に硬く、質量を増した。含み切れなかった唾液が滴り落ちて水音が響く。深く飲み込んでは、息苦しさに顔を上げる。張り出した先端が上顎に当たるたび、背筋をざわざわと這い上がってくる快感に、ハーヴィーの唇からはくぐもった声が零れ落ちた。
「凄く、気持ちが良い……」
やがて髪を撫でた大きな手に頤を持ち上げられ、僅かに顔を上げたハーヴィーを欲情に濡れた碧い瞳が映し出す。
「愛しい僕のハーヴィー。そのまま、飲んでくれる?」
情欲に掠れた声にこくりと頷けば、喉の奥にどろりとした欲望が流れ込んだ。
「ッぐ……、んッ、……ぅっ」
「良い子。零さず、上手に飲めたね」
「ぅ…っ…」
「おいで。君も、気持ち良くしてあげる」
濡れた唇を拭う指先に誘われるように、ハーヴィーはロイクの上を這いあがる。ベルトへと掛けられた指に欲情した下肢を剥き出しにされ、ハーヴィーは僅かに視線を逸らせた。
ロイクの長い脚が、ハーヴィーの下肢をぐいと持ち上げる。
「んっ……ぁっ」
「咥えただけでこんなにして、僕のはそんなに美味しかったのかな?」
耳元に囁く声に、顔に熱がのぼる。唾液に濡れた指先に秘部を割り開かれて、ハーヴィーはロイクの首筋に顔を埋めた。
「ロイ……っ」
「ハーヴィー、顔を上げて、キスして?」
ロイクの声にハーヴィーはおずおずと顔を上げた。碧い瞳に、欲情に濡れた男の顔が映る。閉じる気配のない目蓋に羞恥を感じながらも、唇が触れあった瞬間にはもう、そんな事はどうでもよくなってしまった。
待ちかねたように差し込まれる舌先を吸い上げ、絡め合う。深く合わせた唇から、含み切れない唾液が滴り落ちるのも構わず貪り合う。
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