Day.22

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Day.22

 クルー専用の区画にある会議室にはその日、大勢の姿があった。制服を身に纏う者、私服の者、格好も国籍も様々なクイーン・オブ・ザ・シーズのクルーたちである。  ざわざわと賑やかな会議室の上座にはひな壇が設置され、普段は真面目な会議の行われる場所であるはずの部屋はまるで、記者会見場のような様相と化している。否、まさしく今日は、”会見”の場に他ならなかった。 『カップル成立発表会』  クイーン・オブ・ザ・シーズに代々受け継がれる恒例行事である。  出入りはあるものの、総じて増え続ける人の数に、ひな壇に座らされたロランは俯く以外に出来ることはなかった。 「もしかしてロラン、緊張してる?」 「緊張というか、恥ずかしくて消えてしまいたいです……」  クロスの掛けられたテーブルの下、今にも両手で顔を覆わんばかりのロランの手をガブリエルは大きな手で握った。 「ロランの手、ずっとこうして握ってて良い?」 「そんな、誰かに見られたらどうするのですか……」 「良いじゃん。恋人なんだから手くらい普通に繋ぐだろ?」  若者らしい爽やかさを纏うガブリエルが、ロランには眩しかった。若々しく、溌溂とした笑顔があまりにも自分とは対照的で。  やがて人の出入りも落ち着きを見せ始めたころ、カジノディーラーの制服を纏った男がひとり、マイクを持ってひな壇のすぐ間近にやってきた。 「さあさあ、皆さまお待ちかね! クイーン・オブ・ザ・シーズⅡ初の我らがカップルは! なんと我が家史上ナンバーワンの年の差カップルだー!」  やいのやいのと上がる歓声をものともせず、MC役の男の声が室内に良く通る。 「名医と名高いロラン医師のハートを射止めたのは、新進気鋭のセキュリティー副統括ッ! 強面だらけのセキュリティー部門に舞い降りた大天使ガブリエルだッ!」  指笛口笛拍手に交じり、野次から祝いの言葉まで、室内は増々賑やかさを増していく。紹介のアナウンスもそこそこに、さっそく始まる質問タイムにそこここで手が上がる。  ざっとガブリエルが室内を見回した限りでは、今回乗船しているメイドメンバーの全員が集結していた。それどころか、ちゃっかりと辰巳を連れて参加しているフレデリックに苦笑が漏れる。  最初にMCに指名されたのは、ロランと同じメディカルセンターで働くドイツ人の医師、エルザだった。 「医療班、ドクターのエルザよ。そうね、先ずは、ロラン医師の魅力について、ガブリエルの話を聞きたいわ。ああ、ちなみに、医師としての手腕とか、そういった誰でも知っているような話しはなしよ?」  にこりと微笑むエルザに、ガブリエルは笑顔をみせた。 「オーケー、エルザ。ロランの魅力は、やっぱり包容力と、女性とはまた違う色気かな。それに、誰にでも優しいところ。……こんな感じで良いのかな?」  後半をMCに向かって告げれば、男はガブリエルに向かってビシッと親指を立ててみせた。  続いて指名されたのは、当然のように手をあげていたフレデリックである。名指しされた瞬間に、フレデリックがそこかしこから賑やかしの野次を飛ばされるのは、いつもの事だ。 「航行部キャプテンのフレデリックです。じゃあ、せっかくだから今度はロランにガブリエルの魅力を語ってもらおうかな」  賑やかしの場を設けた張本人でありながら、難題を押し付ける気はどうやらないらしい事に、ガブリエルとロランは図らずも同時に内心で安堵の息を吐いた。 「ガブリエルの魅力、ですか。そうですね……、聡明なところでしょうか。それから、一緒にいると安心できるところですね」  恥ずかしいと言っていた割に、落ち着いた態度で応えるロランの手を、ガブリエルはきゅっと握った。  幾人かの質問にふたりで応え、続いて指名されたのはクリストファーだった。 「サービス管理部、ゲームマネージャーのクリストファーだ。そうだな、どこからが浮気になるのか、二人の見解を聞いてみたい」
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