黒猫が「また会えたね」と私に囁く

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    「また会えたね」  私が再び黒猫を目にしたのは、ユウコを殺してから一ヶ月後。同じように空が灰色の一日であり、猫はそれ以来、人間の言葉を使うようになっていた。  いつも場所は違うけれど、塀の上にいるのは同じ。気安くウインクする癖も共通だから、同一個体の黒猫に違いない。  初めて「また会えたね」を耳にした時は、本当にびっくりした。驚きのあまり、きょろきょろと周囲を見回してしまったほどだ。  そして偶然視界に入ってきたのが、赤いコートの女性だった。  学生時代のユウコがよく着ていた服に似ている。年齢や体格も同じくらいで、艶やかな長い黒髪も共通。そう思い始めると、その女性から目が離せなくなり……。  あれから三年。  曇りの日に散歩する習慣は、まだ続いている。灰色のパーカーも、ナイフが入ったリュックも、全く変わっていなかった。  ただ近所をぶらぶらするだけで、何もせず帰宅する場合も多い。しかし塀の上の黒猫を目にして「また会えたね」という囁きを耳にした日は、見ず知らずの女性を一人ずつ殺すことにしている。  被害者は、どこかユウコを彷彿とさせる女性ばかり。「ユウコとまた会えた」という気持ちになるほどだった。  そんな女性たちを殺す瞬間は、妙に気分が高揚する。自分でも上手く分析できないけれど、そのあたりの心の動きが、殺害動機と関係するに違いない。  いずれにせよ、全ては黒猫から始まった話だ。  あの黒猫の「また会えたね」も、いつかは聞こえなくなるのだろうか。  あるいは、私が無差別殺人の犯人として捕まる方が先だろうか。  どちらであっても構わない。そんな投げやりな気持ちで、私は毎日を過ごしている。 (『黒猫が「また会えたね」と私に囁く』完)    
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