黒猫が「また会えたね」と私に囁く

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     その(あと)のことは、正直あまり覚えていない。  マンションの五階まで上がり、彼女の部屋で美味しい紅茶をいただいたこと。大学時代の思い出を語り合ううちに、なぜか口論になったこと。  はっきりと記憶があるのは、そこまでだった。  その先は無我夢中だったらしく……。  ハッと気づいた時には、私は肩で息をしていた。 「はあ、はあ……」  立ちすくむ私の目前(めまえ)には、(ゆか)で仰向けのユウコ。大きく目を見開いたまま微動だにせず、胸のあたりがぐっしょりと赤く濡れている。  脈を確認するまでもなく、彼女が死んでいるのは一目瞭然だった。  ここでようやく、自分の右手の違和感に気づく。そちらに視線を向けると、血まみれのナイフを握っていた。 「ああ、私が彼女を殺してしまったのか」  そんな独り言が、自然に口から飛び出す。  しかし不思議なことに、罪悪感の(たぐ)いは全く湧いてこなかった。ただ何となく「こんな不幸な結果に終わったのだから、やはり黒猫は不吉の前兆だった」と感じただけ。  そのまま平然と帰宅して、まるで何事もなかったみたいに、日常生活に戻ることが出来た。    
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