朝学習

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「早いな」  ボソッと悠成はつぶやく。彼は腰を上げ、茶色い鞄を肩にかけた。壁に掛かった時計ではあと五分で八時になる。 「お礼は気にしないで」  悠成が鞄から封筒を取り出した。大地はそれを当然のように受け取る。悠成は手を上げて教室を出て行く。大地はぼんやりとした頭で悠成の背中を見送った。廊下で悠成が誰かと笑い合う。それがあまりに本来の悠成の声だったから、大地は感情を消した。  そのまま窓辺で日を浴びていたら、廊下が賑やかになる。それぞれ教室に入ったり、廊下で立ち話をしたりし始める。  悠成から受け取った封筒の中身は、彼からの手紙だった。悠成とは普段からグループも違うし、共通の友人もいない。そのことから、大地と悠成を繋ぐ線はとてももろかった。  携帯電話のアドレスや番号を聞き出す勇気もない大地は手紙を送った。病気で長期入院していた母が大地宛てに手紙を送ってくるものだから、携帯電話でメッセージを送るよりも、白い紙に気持ちを綴ることが日常となっていた。「古風だな」と悠成の茶化した顔を忘れない。今年の四月から始まった文通は月に二回の往復で、それは今も続いている。
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