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「うん? いや、違うな。僕が目標をもって走り出すことで、結果が僕を追いかけてくるんだ。これだよ、これ! 目標が高いほど、背負う荷物が大きいほど、僕は目標に向かって必死になれる! 僕を追いかけてくる結果は大志を抱いて目標までたどり着けるんだ!」
高里は俺の両肩をガシっと掴まえて聞いてきた。
「そうでしょう? 先生」
「う、うん、そうだね。キミ、すごく良いこと言ってると思うのよ。でも、なんかズレてんだよなあ」
「さあさあ、こうしちゃいられない」
「おい。ここで俺とお喋りしてることは時間の無駄か?」
「時間の無駄? そうだ。誰でも一日二四時間。時間はたっぷりあるわけじゃない。有効に使わないといけないのだ。そうだな。まずはちょっと難しい目標を立てることから始めるか」
高里は俺を完全無視して職員室から出ていった。
俺の左隣の席の太田先生が心配そうな顔をして聞いてきた。
「彼、大丈夫ですかね? 強く思い込みするタイプが間違った活動家とか教祖になるんじゃないかと私は思うんですよ」
「げっ!?」
それは思うではなく間違いないと俺は思った。
これから一体何人の人間があいつの歪んだ大志に引きずられてしまうのか?
「高里を急いで追いかけなくては! 取り返しのつかなくなる前に! 教師として正しい道に導かねば!」
俺は走り出した。背中から絶望という結果が追いかけてくる。
それを振り切れなかったら地球はおしまいだ。
――ん!?
一体何の話だ? これは。
俺はただの教師ではなかったか?
違う。これから悪の首領となるだろう高里を俺は追いかけるのだ。
俺を追いかけてくる絶望の結果が勝利の結果に変わるその日まで、俺は高里を追いかけるのだ。
そう。俺は、ザ・ヒーロー。
燃え上がる心の俺の前に高里が再び現れた。
「それは違う。先生。あなたこそ悪の首領なのだ」
「なんだと? そんなこと誰が決めた?」
「僕ですよ。付き合ってもらいますよ、先生。僕の退屈を消す役者のひとりとしてね」
「いいだろう。戦いだ。まずはこの学校を教師の権力で支配する」
「ほほう。いいでしょう。先生と僕の戦いだ」
「決戦はお前の卒業式の日だ。それまで俺を必死に追いかけてくるんだな」
「何をおっしゃるか。先生。簡単に負けないでくださいよ」
俺は高里と一度がっちりと握手して別れた。
――。
イージー。単純なやつだった。
これで高里は高校三年間を優秀な成績で過ごすだろう。
そんなの俺の都合のいいように高里を操作しただろうって?
そう言われてもかまわない。生徒のためだったら俺は悪魔とだって契約してやろうじゃないか。
相手が誰であっても逃げ切る。勝ち逃げするけどな。
そう。俺は、ザ・ダークヒーロー。
「ふっ」
誰かの声が聞こえた。五月病は人を変身させる――と。
その通りだなと俺は思った。
だって俺は教師になって毎年五月に変身してるのよ、五月病の生徒を相手に。
まあいいさ。いい方向に変身できるようにやる気出せよ。やる気を出して走っていれば、いい結果が追いかけてくる。そいつと一緒にゴールできるさ。
<終わり>
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