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「なあなあ、ちょっと聞いてくれよ」
放課後、教室を出たところで、男子生徒は女子生徒の肩を叩き言った。
「なに?」
女子生徒は首を回し、男子生徒を見やる。
「なんかさ、今日だけで下級生だと思うんだけど、29回会った子がいてさ――」
男子生徒は興奮気味に言う。
「これってもう、偶然って言葉じゃ収まらない気がするんだよな。なんていうか、運命ってやつかもしれない」
まくし立てる男子生徒に、女子生徒は溜息交じりに、
「可愛いの?」
と一応訊く。
「背が小さくて、なんかあどけない感じ? まあ、好みか好みじゃないかと言えば、好み」
「ふーん」
「いや、ふーんじゃなくてさ、これってどう思う? 運命かな?」
男子生徒は鼻息荒く訊く。
女子生徒は片目を瞑り、「どうだろうね」と素っ気なく返した。
「隣に住む幼なじみのお前の意見が聞きたいんだよ。なあ、どう思う?」
今度は懇願するような目。
女子生徒は首を振り、「じゃあ訊くけど」と男子生徒に言う。
「偶然と運命の線引きは、何回会ったかで判断するものなの?」
「それだけじゃあないけど、それもひとつの要素ってこと。だって29回だよ。あと1回会ったら、30回だよ。日常的にあり得ると思うか?」
「うん、まあ、あり得ることもあるんじゃないかな。偶然に」
「偶然かもしれないけど、それが運命なんじゃないかってことを訊いてるのさ、俺は」
男子生徒の言葉に力が入る。
女子生徒はやれやれと薄く笑い、そして言った。
「あのさ――」
「うん」
「今日わたしと会うの、ちなみに32回目だけど、これって運命?」
男子生徒の動きが止まる。
「……あっ……そう……なの?」
「うん。家出てから、今の放課後に至るまでで32回。わたしたち、運命の二人?」
「あー……うん。……そう……なのか……な」
男子生徒はバツが悪そうに頭をかく。
「じゃあ、そういうことだから、じゃあね」
女子生徒はそう言うと、困惑する男子生徒を置いて歩き始める。
後ろは一度も振り向かずに――。
そして校門で歩を止めると、脇に隠れて息を潜める。
数分後。
難しそうな顔をして歩く男子生徒の目の前に悪戯っぽい笑顔を浮かべて歩み出る。
そして言うのだった。
「また会えたね」
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