開かずの扉

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ああ、本当にどうもありがとう。 お主のおかげでようやくここから出られる…… お主が来てくれるのをどれほど待ち望んでいたことか! やっと……やっとここから出られる。 やはりお主は、余の忠実な僕(しもべ)だ。 ……なにをキョロキョロしておる。 お主、そう、お主のことだ。 ああ、すまぬ。お主は何も覚えていないのだったな。 最初から話さねばなるまい。 今となっては、遠い昔のことになってしまったが…… 余は大きな国の王子、お主は余に仕える側近だった。 賢王として名をはせた父王は、余には甘い父親だった。 わがままだった余は、ある日みすぼらしい姿の魔女を邪険にした。 怒り狂った魔女は、余をこんな空間に閉じ込めたのだ。 ・・そう、人目のつかない空間に。 最初は地下牢。 あるときは、大金持ちの蔵の最奥に置かれた箱の中。 あるときは、巨大な国立図書館の蔵書の中の誰も手に取らなそうな古書の中。 この空間から出るには、魔女から鍵を渡されたお主にあけてもらうしかない。 しかし、魔女はお主から記憶を奪っていってしまった。 長い……長い時間。何度生まれ変わっても、お主は余に気づいてはくれなかった。 幾度となくすれ違い、そのたびに大声で呼びかけてきたのだぞ…… ああ、すまん。ついお主を責めるような口調になってしまった。 今世で余は、このサイト内に囚われた。 ここにお主が来てくれたとき、余は一目でお主とわかったぞ。 生まれ変わって容姿がちがっても、その瞳のきれいさはずっと変わっておらぬからな! ……余はそろそろ行く。 お主と会うことはもうないだろうが、この恩は一生忘れぬ。 じゃあな。 おっと、大切なことを忘れておった。 鍵をあけたあかつきには……『扉を開ける鍵を持つ者』は使命を果たしたとして、今後、永遠の幸福が約束される、と魔女が言っていたぞ。 ……ふっ、よかったな。 では、達者で暮らせ。 さらばだ。
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