土の楽園で会いましょう

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「は」  金色の美しい竜。まばたきをしても消えないそれを見上げて、ぽかんと口を開ける。竜なんて、物語の中の伝説の存在だ。実在するはずがない。  ぐるぐるとふざけた動きで空を泳ぐ竜は、やがて高度を下げ始める。不意に、ウルドはその竜と目が合ったような気がした。目を細め、ぴたりと動きを止めた竜は、ぐるると小さく、喜ぶように喉を鳴らす。 『えっと、なんだったかなあ……、ああ……、えー、そなたたちはやりすぎた。長すぎる戦で大地は血に染まり、死の穢れが森を腐らせる。許しがたい罪だ』  ひどい棒読みだった。竜の表情なんて読めるはずもないのに、適当に言っているのがなぜか分かる。 「な、なんだ……あれは……!」 「竜? 喋っている、のか……?」 「化け物!」  争いの手を止め、誰もが空を見上げていた。恐れと動揺が一気に広がっていく。けれど、人々の喚き声など聞こえぬとばかりに、ばさりと竜は雄大に翼をはためかせるだけだった。   『よって、喧嘩両成敗! ……じゃなくて、炎で以ってその罪を注ぐがいい、愚かな人間ども』    とってつけたようなおどろおどろしい宣言とともに、世界は炎に包まれた。    竜が咆哮する。  びりびりと体が震えて、動けなくなった。  空気が震え、竜の口から飛び出した炎の雨が大地に降り注ぐ。熱気がゆらめく間もなくかき消されては、耳を塞ぎたくなるような轟音が次々に辺りを満たしていった。  ひとり、またひとりと人が炭へと姿を変えていく。熱に煽られ、視界が赤く染まっていく。悲鳴さえ上げる間もないほどの高温で、命という命が炎に包まれ消えていく様を、ウルドはただ茫然と見つめていた。 「あ、ぁ」    声も出なかった。何が起きているのかも分からない。神罰というものがあるのなら、きっとこういうものなのだろう。冗談のような光景を前に、ウルドは何もできなかった。無意識のうちに後退りしようとして、それさえ叶わず膝が抜ける。握っていたはずの剣を、地面に落としたことすら気付かなかった。  がくりと座りこむ寸前、力強い腕がウルドの体を支えた。背後から回ってきた腕が、ウルドを抱え込むように、するりと上半身に絡みつく。 「どうしたの、ウルド? 真っ青だよ」    がたがたと震えながら背後を振り仰ぐ。ウルドを後ろから抱きしめているのは、見たこともない青年だった。先ほど空に浮かんでいた竜とまったく同じ、輝くような金色の髪が肩から伝い落ちてくる。こめかみを飾るうろこの名残と、人知を超えた美しさは、彼が人間ではない存在であると、ありありと主張していた。 「もしかして熱かった? ウルドは燃やさないようにって気を付けてたんだけどなあ」  場違いに穏やかな微笑みが恐ろしくて仕方がない。危険な、関わってはいけない存在だと本能が叫んでいた。   「袖が焦げちゃってるから、このせいかな? とりあえず脱いどく?」    けれどその本能的な恐怖とは裏腹に、のんびりとした口調と、ズレた物言いを聞くたび、ウルドの体から力が抜けていく。    だって、ウルドはこの声をよく知っている。ずっとずっと聞きたいと願っていたのだ。   「…………サウィン?」  まさか、と思いつつ呼びかけると、人外の男はぱちぱちと不思議そうにまばたきをした。
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