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蠅はまたガラス窓にとまる。二人は目配せをして夏掛けをわっと被せた。
どうやら上手くいったようだ。美知はそーっと夏掛けを捲って中を見る。
ブーン、ブーン。蠅が夏掛けの隙間から出て来て天井にとまった。
「逃げられちゃった」
「これだと上手く行かないよ。やっぱりお姉ちゃんがやっていたように新聞紙で叩くのが一番なんじゃない?」
「そうか。じゃあ、奈知の分の新聞紙も持ってくる」
二人はそれから一時間以上も蠅を追った。
「ねえ、やっぱり蠅、殺さないであげよう」
美知がそう言うと奈知が「うん、そうだね。私もそう思ってたの」と言う。追っているうちに感情移入してしまったのだ。二人とも蠅が可愛くなってしまった。
「窓を全開にして追い出そう」
美知はサッシを開けた。蠅がブーンと出て行った。
家族会議は姉妹の進学についてだったようだ。また後日やるとお父さんが言った。
二人はその晩、一階で仲良くテレビを観た。蠅が姉妹の絆を強めてくれたらしい。お母さんが首を傾げる。
「今日は二人、仲がいいのね」
「うん、お姉ちゃんのこと見直した。案外優しいんだよ。だって蠅を逃がしてあげたんだもの」
奈知はそう言って噴き出す。
「あっ、そういう奈知だって蠅を逃がそうって言ったじゃない。蠅が可愛くなったんでしょ」
美知は頬をぷうっと膨らます。
「姉妹は仲がいいのが一番なんですよ。蠅に感謝しなくちゃね」
お母さんが頬をあげて笑みを見せる。これもひと夏のいい思い出だ。
終わり。
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