蠅を追いかける

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 蠅がブンブン飛んでいた。窓ガラスのところにいたと思ったら今度はテーブルのお煎餅の袋の上にとまっている。美知(みち)はうざったく思って近くにあった新聞紙で叩いた。蠅はぶーんと逃げた。妹の奈知(なち)が「お姉ちゃん、蠅を殺そうと思ってるの?」と言った。  美知は中学三年生、奈知は年子で中学二年生だ。歳が近いから仲がいいかというとそうでもない。美知は柔道部で男勝りなのに対して奈知は裁縫部で女の子の見本みたいな性格だ。お互い自分の部屋を持っているから食事のときくらいしか顔を合わせない。食事も時間が合うときだけだ。家族でリビングで集まることは殆どない。テレビは自分の部屋にあるものを見ている。親は何も言わない。だから学校に行くのも別々だし、今日みたいな家族会議のとき以外は喋ったりしない。  お母さんは家族会議があると言っておいて忘れたみたいだ。「土曜日の三時に一階の和室に集合ね」と言っておいて仕事から帰って来ない。美知はそれでも一時間くらいは待っていようと思っていたのだが蠅がいた。
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