蠅を追いかける

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「ありがとう。奈知、これを蠅の上から被せよう。向こう側を持って」  美知はそう言うと夏掛けの片側を両手で掴んだ。奈知も反対側を掴む。蠅がテーブルの上にとまった。今がチャンスだ。お煎餅まで巻き込むが仕方がない。 「それっ」  だが蠅は夏掛けが被さる前に逃げてしまった。 「ダメだったね。どうする?」 「もう一回待とう」  美知は奈知にそう言うと蠅を目で追った。二人が捕まえようとしているのに挑発するように近くにとまる。五分くらい様子を窺っただろうか。蠅は窓ガラスにとまって動かない。 「よし、奈知、この体勢から行こう」  美知と奈知は夏掛けの端を持って蠅に向かう。  ブーン、ブーン。  また逃げられた。この作戦は失敗なのかな。 「上手くいかないね」 「うん」  奈知が頷く。  美知と奈知はこうやって二人で共同作業をしたのは久し振りだ。小さいとき砂場で山にトンネルを作って以来かもしれない。美知は奈知のことがあまり好きではなかったがこうして蠅を追っているうちに親近感が湧いた。奈知もそうだ。美知が男っぽくてその割に勉強が出来るので疎ましかったが案外いいお姉さんなんじゃないかと思えてきた。
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