寿司とヤクザ

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寿司とヤクザ

歌舞伎町でお店を始めて2年目くらいの頃の話。 若い頃、色んな意味でちょいとグレーな会社にいた頃の先輩と歌舞伎町の路上でバッタリ出くわした。 「おう、久しぶりじゃん!何?店やってんの?今度アフターで行くわ」 そう言って先輩はキャバ嬢とホテル街に消えていった。 だいぶ酔ってたし、俺に会ったことさえも覚えてないだろうなー。 そう思った2日後の深夜1時半ごろ‥ 先輩は仲間やキャバ嬢達と大人数で店に飲みに来てくれた。 ただ‥ 男性陣は先輩以外はどう見てもそっち系の方々だった。 今日は他の客は入れないな‥ そう思いつつもボトルやシャンパンをどんどん入れてくれるから、まぁいいかという感じで接客に徹した。 その中の1人の人が「おい、寿司の出前頼むわ」と言って1万円を渡してきた。 いつも頼む歌舞伎町の寿司屋に電話しようと携帯を触っていると 「おい、大トロ大量に入れろって言え」 先輩の友達のヤクザさんは超高圧的に言ってきた。 寿司屋に電話が繋がったので、大トロを大量に入れて欲しいと伝えると、それだと1万円では桶がスカスカになりますよと言われた。 桶がスカスカになりますよとヤクザさんにそのまま伝えたのだが、ヤクザさんは誰かと電話で喧嘩していたため、「いいから大トロ持ってこいって言えよ」と返された。 彼らは何故いつもあんなに怒っているのだろう?と思いつつ、寿司屋に大トロ大量のオーダーを通した。 あまりに店内で電話に向かってキレまくってるので、アフターでヤクザさんについてたキャバ嬢は若干引いていた。 ちなみに先輩はウェーイ系の楽しい飲み方の人なので指名キャバ嬢といい感じになっていた。 30分程すると店のドアが開き寿司が届く。 1万円を払って桶を受け取る。 めちゃくちゃ美味そうな輝く大トロが桶の中に並んでいた。 みんなが囲むテーブルの真ん中に桶を置いて、ラップを取り、人数分の皿と割り箸、醤油をセッティングした。 「うゎぁ〜超美味しそう!」 「あたしマグロ大好き!」 キラキラキャバ嬢だって1日頑張って働いた後には腹だって減る。 さすがにこの人数にメンツで俺が寿司をつまむ訳にはいかない。 可愛いキャバ嬢ちゃんたち、俺の分まで大トロをお食べなさい。 そう思ったのも束の間、まだ電話でキレてるヤクザさんが寿司桶を見るなり今までよりもさらにキレ始めた。 「おい‥テメぇよぉ‥俺のことナメてんだろ?」 ナメるようにキャバ嬢を見回したのがバレたのか!? 「大トロ大量に入れろって言っただろうがよ」 寿司のことでキレてるらしい。 「こんなスカスカにあいた寿司持って来て俺のこと舐めてんのか?って聞いてんだよ」 いやいやいやいや、どう考えても俺にその怒りをぶつけるの間違ってるだろw さすがに「ウェーイ」ってなってた先輩も「おい、やめろって!そいつ何も悪くねーじゃん」と落ち着かせようとしてくれていた。 だが止まらないヤクザさん。 ヤクザはナメられたら終わりだ。 一度キレたら相手が屈するまで矛を収める訳にはいかない。 そんな感じだったのだろうか? ヤクザさんは左手にスマホ(まだ相手と揉めてる)右手に寿司桶を持って更に高圧的に寄ってきた。 「聞いてんだろうがよ。こんなふざけた寿司持って来て、俺のことナメてんのか?ヤクザナメてんのかよ!?」 はい、お巡りさんこの人です。 カタギの人間にヤクザを語って脅してはいけません。 まあまあ、でもここはこの後高額お会計を頂くために我慢ですよ。 「いや、ナメてないですし、ちゃんと寿司屋にこうなりますよって言われたのも伝えたじゃないすか!」 思わず反論してしまった。 すると火に油状態でヤクザさんの持った桶は更に高く、頭上に振りかざされた。 そして次の瞬間、キャバ嬢達が心待ちにしていた大トロ君たちは宙を舞った。 ガシャーーーン!!! ヤクザさんは桶ごと寿司を入り口に向かって投げたのだ。 飛び散るシャリ、張り付くネタ、この後の掃除を考えるとテンションはダダ下がりである。 「あー、もったいない」 「食べ物粗末にする人ヤダ」 「もう帰っていい?」 アフターで来たキャバ嬢たちが口々に言い出した。 さすがに先輩も「すまん、もう帰るからお会計出して」と気を遣ってくれた。 とりあえず入り口が寿司まみれになっているので一旦掃除をしなければいけない。 飛び散ったシャリを指で拾っていると、ヤクザさんが指名してたキャバ嬢が隣に来て一緒にシャリを拾ってくれた。 「なんかごめんね、ってかあたしフツーに大トロ食べたかった」 あなたは何て出来た女性なのでしょう! 小さな気遣いが嬉しかった。 結局ヤクザさんは店を出るまで電話で誰かと揉めていた。 そこそこの金額を置いて行ってくれたのでその日は閉めて掃除に徹した。 それから数日後、シャリを一緒に拾ってくれたキャバ嬢が仕事終わりに泥酔状態で飲みに来てくれた。 前回とはだいぶ印象が違ったが、殺人未遂レベルにテキーラとイエガーをくれて、俺も同じレベルの泥酔に仕上げられた。 閉店間際に彼女が「大トロ食いたくね!?」と言うので、店を閉めて、歌舞伎町のど真ん中にある絆寿司に行った。 大トロ食って、瓶ビールを数本飲んで、仕上げに日本酒を飲んで、アガリの代わりにホテルで彼女を食べさせていただいた。(実は食われた説もある) ヤクザさん、本当にありがとうございました。 そしてこの話を読まれないことを心の底から願います。
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