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立ちんぼファミリー
歌舞伎町には今も昔も、立ちんぼを生業として日銭を稼いでいる女たちがいる。
特にこれを書いている2023年現在は、歌舞伎町の大久保公園を囲むようにズラリと立ちんぼが並び、それを少しでも安く買い叩こうと群がるオジたちが異様な光景を醸し出している。
俺が歌舞伎町でお店を10年ほど前は、立ちんぼのメインスポットは歌舞伎町交番の裏だった。
交番の裏で売春とはとんでもない話である。
見るからに立ちんぼだとわかる女数人、それと取りまとめであろうやりっぱなし金髪に24karatsのセットアップを着た中年。
お世辞にも、1人も金を持っていそうな人間はいなかった。
おそらく、その中年が出会い系などで集めた、お店でも稼げない風俗嬢をまとめて立ちんぼを始めたのだと思われる感じだった。
そして女たちの中にとにかく目立つ女がひとりいた。
推定体重120キロくらいの露出タップリの女が、歌舞伎町交番の裏で一際存在感を放っていた。
何をどうチョイスしてお前がショーパンにニーハイなのだ!?
ニーハイの上に肉が被さってるぞ!?
そんな感じだが、不思議と客は彼女を買っていくのだ。
おそらく出会い系アプリで中年がマッチングを行い、待ち合わせ場所に立ちんぼ達がいるようなシステムと思われるが、
期待と股間を膨らませたオジは、目の前に120キロのニーハイジャンボが現れても一緒にホテルに消えて行くのだ。
ちゃんと挿入出来てるのかは気になるところではあるが‥
そんな規格外のサイズと露出を放つ女は、その立ちんぼだけではなく、どの時代にも同じようなタイプが歌舞伎町をウロウロしている。
太りすぎて若干足を引きずるように歩くその子たちを見て、露出するより痩せろよ!と心で思った人は多いはず。
そして彼女たちは決まって、人がいるところで携帯に向かって誰に話してるのか独り言かわからないが
「彼氏がさー、他の店行くなってうるさいからー」と、初回無料か500円で入った店の売れないホストを彼氏呼ばわりするのだ。
昔は新人ホストが自分でキャッチして店に入れないといけない時代があったため、ジャンボ露出たちはこぞって虚言を発して売れないホストを釣っていたのだった。
ある意味モテたのだ。
ある意味で‥
とある日、俺は歌舞伎町のマルハンでパチンコ北斗の拳を打っていた。
リーチの度にサウザーにやられ、お金をどんどん吸い取られる中、突如左隣にただならぬ気配を感じた。
「や、山のフドウ!?」
北斗の拳に夢中になりすぎて一瞬勘違いしたが、隣にドスンと座ったのは、歌舞伎町交番裏でいつも立ちんぼをしているジャンボだった(もうジャンボと呼ばせてもらう)
咥えタバコに缶コーヒー、パチンコ台にUSBを挿して携帯を充電する様はベテランそのものだった。
よく見るとジャンボに連なるように、立ちんぼB、立ちんぼCも北斗の台に座った。
こうなると俺は自分の台よりもジャンボ達の動向の方が気になって仕方ない。
座って間もなく、ジャンボの台が赤く光り始めた。
赤保留からの赤い演出が続き、ラオウでリーチという激アツ演出である。
俺は数時間かけてサウザーしか出会えなかったのに、こいつはたったの数分でラオウに‥
「キタキタキタキタ、よっしゃオラ、ラオウやっちまえ!」
ジャンボはがっつり聞こえる声で荒めのセリフを吐いた。
そしてケンシロウとラオウの戦いのクライマックス、ボタン押しの時がやってくる。
ジャンボはものすごい力でボタンをぶん殴った。
ドシューーーーー
緑カットイン!!!!
「ああああああああああ!!!」
ジャンボの声が響く。
ケンシロウは敗れてしまった。
そこから小一時間‥
俺、ジャンボ、立ちんぼB、立ちんぼCの台は特に熱い演出もなく、どんどんお金だけ飲み込まれていった。
すると、あのジャンボたちの取りまとめらしき金髪セットアップの中年がこちらにやってきた。
「どーよ!?出てるー?」
「全然だよ!マジイライラするわ!」
「ほれ、じゃあみんな1万ずつ渡しとくから、もし出たら返せよぉ〜」
「マジ!?やったー!!何?そっちの台出てんの?」
「6よ6、、、絆の設定6」
どうやら中年はバジリスク絆の設定6に座れたようだ。
「ラストまで打ってよ、そっから焼肉でも行くか」
「焼肉ぅ!!!」
ジャンボは喜びのあまりイスの上でほんの少し飛び上がる。
俺はイスの心配をした。
そこからジャンボ達は奇跡の巻き返しで、bonusを連チャンしまくった。
俺は‥
確か8万ほど負けたような気がする。
1人虚しく先に店を出た俺だったが、よくよく考えたら知り合いじゃないし元々1人で来てるのだった。
翌日‥
歌舞伎町交番裏にはいつもと同じようにジャンボ達の姿があった。
今まで気づかなかったが、援デリや立ちんぼで生計を立ててるグループであることには違いないが、彼女達はどことなく楽しそうで、お互いが話しているときは笑顔が絶えないのだ。
まとめの中年にも強めにツッコミを入れたりできる、人間としての距離が近い感じがした。
それからもみんなで揃ってご飯を食べてる姿を見かけたりもした。
あれはあれで、一つの家族の形だったのかもしれない。
もちろん今はその場所に同じ人間はいない。
今どこで何もしているかも知らないが、この世界のどこかで、あの時のように笑って過ごせてくれたらいいなと、ふと思い出した。
どこ目線だよ俺。
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