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「あなたは、なぜお狐様を知っているの?」
「話した通り。ここで秋菜って子と、お狐様と遊んでいたから」
浩介君はふーっと息を吐いて、固まっていた背中を伸ばした。
「ここの境内、幼稚園の頃によく遊んでいたんだ。だけど小学校に入ったら狐の像がひとりでに歩く幽霊神社ってウワサが流れて、地元の子は近寄らなくなった。それで僕も行かなくなったんだけど、最初の夏休みの終わりに昔遊んでいたことをふと思い出してさ、勇気を出して入ってみた。そしたら池の近くに、昔はなかったはずのお狐様の像が二つ立っていたんだ」
そっか。
私は地元の学校のウワサ話は知らない。それで子供が来ない神社でお狐様の像を見つけ、勝手に立てた。それが幽霊のウワサにひと役買ったんだろう。
「最初は本当に幽霊と思ってびっくりしてさ。でも首に枯れたタンポポやクローバーがかかっていて、誰かがここで遊んでいたって気づいた」
浩介君は、私が祖父母の家を離れて母親と二人で東京に移った後に、お狐様を見つけたわけだ。
「周りの石とか散らばっていたから、放課後に寄って積み直したりしていた。そしたら、学校で僕が狐の幽霊に憑かれたってウワサになって。みんなが僕を幽霊ってはやし立てるようになった。それで学校行くのも嫌になっちゃった」
それから遠い記憶を探るように、顔を空に向ける。
「一人でお狐様と遊んでいたら、ある日の放課後に女の子が神社に入って来て、『何してるの?』って話しかけてくれて。お狐様の像を見て『かわいい。お世話してるんだね』って言って、自分から手伝ってくれた」
つまり私と男女逆のパターンだ。女の子は私よりずっと活発な子みたいだけど。
「『僕と一緒にいると幽霊にされちゃうよ』って忠告したけど、女の子は全然気にしなかった。こんなかわいい狐の子を、さみしい神社にほっとくわけにいかないって」
「それが、秋菜さん?」
「うん。会った時は知らなかったけど、違うクラスで、男の子たちに結構人気があった。でも僕と神社で遊んでいることが知れると、秋菜ちゃんも幽霊仲間にされちゃった。いま思うと男の子はやっかんでいたんだろうな」
「小学生なのに、みんなませてるのね」
「いまはそんなもの。その後、僕が廊下で男の子たちに『お前のせいで秋菜が遊ばなくなった。幽霊の仲間にするなよ』って囲まれた。怖くなって泣き出したら、明菜ちゃんが助けてくれたんだ。『あの神社に幽霊なんかいない、幽霊なんて言う子はみんな弱虫だ』って。『浩介君はあなたたちよりずっと勇気がある。幽霊を追い出して、お狐様を助けた勇者だよ』って」
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