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迎えに来てもらわなければ良かった。
「ちっちゃな頃いつも、晃士が泣いてると敦司くんがすぐに飛んできて、家まで来てくれたよねえ…」
やたらとしみじみ話す母親の背後で、俺は赤面。
「………はあ」
玄関扉の前に立っている敦司は、やや口元をひきつらせながら、かろうじて返事した。
「………ちょっと! お母さん何ゆってんだよっ!」
「幼なじみだもんねえ」
晃士はほんとにねえ…それにくらべて敦司くんは…。
いつも唐突に始まる繰り言。
だから、何で親って何年も前のことを昨日のエピソードみたいに話すんだ?
「もう俺たち出かけるから!」
母親を押しのけてサンダルをつっかける。
「女の子たちは強いし、男の子たちは意地悪だったけど敦司くんだけは違ったよねえ…晃士、お小遣いいらないの?」
母親はあくまで敦司を見ながら微笑みつつ、どこからか取り出した千円札数枚をつまんでひらひらさせた。
「…いる!」
お札をひったくる。
「敦司! 行こうぜ!」
「し、失礼します」
「いってらっしゃーい、9時までに帰って来なさい」
「早い!」
「敦司くんといっしょとは言え、9時には帰る! 受験生なんだから。それに天気も悪くなるって…」
「…いってきます!」
「敦司くん、晃士のことよろしくね」
「うるさい!」
「…バス、何分だろ」
俺たちのちっちゃい頃の話を、何かの拍子に親や友達から聞かされると、こいつの機嫌は目にみえて悪くなる。
「すぐ来るかな」
だから俺は言葉を重ねてごまかそうとする。
敦司はバスの時刻表を確認しながら、押し黙っている。
去年の年末から年始にかけて。
互いの親が事情があって不在になるというので、敦司んちで同居生活をすることになった。
俺にとっては夢みたいに楽しかった3泊4日。
自転車の2人乗りもしたし、キャッチボールもしたもんね。
誤解のないように言えば、好きとは一切言われていない。
ずっと、ずーっといろよ。
だって欲しいんだもん。
あれはつまり。
子どもが友達と丸1日楽しくはしゃぎまわった後で、離れがたくなって、どうしようもなくなる。あの感情だ。
俺はそう思ってる。
身長は敦司の方が少し高い。
やっと見慣れてきた、顎から首にかけての、ごつごつした線。厚い肩。
子どもの頃から敦司は大きい方だったけれど、記憶の中ではもっとひょろっとしていたのに。
ゆるいイラストがプリントされたTシャツの下の骨格。2年半のバスケでついた筋肉。
ななめ後ろから見てる。
敦司はそんなこと知らないだろ?
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