はじめてじゃない

2/3
前へ
/29ページ
次へ
迎えに来てもらわなければ良かった。 「ちっちゃな頃いつも、晃士が泣いてると敦司くんがすぐに飛んできて、家まで来てくれたよねえ…」 やたらとしみじみ話す母親の背後で、俺は赤面。 「………はあ」 玄関扉の前に立っている敦司は、やや口元をひきつらせながら、かろうじて返事した。 「………ちょっと! お母さん何ゆってんだよっ!」 「幼なじみだもんねえ」 晃士はほんとにねえ…それにくらべて敦司くんは…。 いつも唐突に始まる繰り言。 だから、何で親って何年も前のことを昨日のエピソードみたいに話すんだ? 「もう俺たち出かけるから!」 母親を押しのけてサンダルをつっかける。 「女の子たちは強いし、男の子たちは意地悪だったけど敦司くんだけは違ったよねえ…晃士、お小遣いいらないの?」 母親はあくまで敦司を見ながら微笑みつつ、どこからか取り出した千円札数枚をつまんでひらひらさせた。 「…いる!」 お札をひったくる。 「敦司! 行こうぜ!」 「し、失礼します」 「いってらっしゃーい、9時までに帰って来なさい」 「早い!」 「敦司くんといっしょとは言え、9時には帰る! 受験生なんだから。それに天気も悪くなるって…」 「…いってきます!」 「敦司くん、晃士のことよろしくね」 「うるさい!」 「…バス、何分だろ」 俺たちのちっちゃい頃の話を、何かの拍子に親や友達から聞かされると、こいつの機嫌は目にみえて悪くなる。 「すぐ来るかな」 だから俺は言葉を重ねてごまかそうとする。 敦司はバスの時刻表を確認しながら、押し黙っている。 去年の年末から年始にかけて。 互いの親が事情があって不在になるというので、敦司んちで同居生活をすることになった。 俺にとっては夢みたいに楽しかった3泊4日。 自転車の2人乗りもしたし、キャッチボールもしたもんね。 誤解のないように言えば、好きとは一切言われていない。 ずっと、ずーっといろよ。 だって欲しいんだもん。 あれはつまり。 子どもが友達と丸1日楽しくはしゃぎまわった後で、離れがたくなって、どうしようもなくなる。あの感情だ。 俺はそう思ってる。 身長は敦司の方が少し高い。 やっと見慣れてきた、顎から首にかけての、ごつごつした線。厚い肩。 子どもの頃から敦司は大きい方だったけれど、記憶の中ではもっとひょろっとしていたのに。 ゆるいイラストがプリントされたTシャツの下の骨格。2年半のバスケでついた筋肉。 ななめ後ろから見てる。 敦司はそんなこと知らないだろ?
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加