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住宅地をぞろぞろと、知らない人たちといっしょに連なって通り抜ける。
この辺りの家の住人は、今日は大変そうだ。無断駐車をさせないようにするため、駐車スペースや空いた土地にカラーコーンや駐車禁止の旨を書いた看板が置いてある。
なんとなくそれを見ながら歩く。
「金取って貸し出せばいいのに」
「でもそしたら、この道に車が入って来て危ないんじゃない?」
そっか、と敦司は答える。
他愛ない会話。
俺の家以外の場所で敦司と会うのはいつぶりだろう。
広い芝生やデッキ、バーベキュー場などがある海沿いの大きな公園がそのまま花火会場になっている。
設置されたステージではすでに、俺たちと大して年齢の変わらなそうな女性グループのパフォーマンスが始まっていた。重低音がリズミカルに響く。
敦司と俺は、そのグループ自体よりも、観客席の最前列に陣取る熱心なファンをしばし観察する。
そろった合いの手、一糸乱れぬオタ芸。
「あれだけ何かを好きになれれば、幸せだよな」
皮肉ではなかった。楽しそうだったから。
敦司はまたしてもやや顔を歪める。
俺には無理だなと言う。
敦司はさ、すっごい好きで好きでたまらないものとか、そういう感情を抱いたこと、あるの?
バスケかゲームって答えそうだから、聞けない。
その周囲に広がる屋台は、昔ながらのお好み焼きやりんご飴。
流行りのレインボーカラーのわたあめ、台湾式だとかの巨大な平べったい唐揚げ、等。
「お前の好きなもん、いっぱいじゃん。甘いの」
「あとで買おうっと」
めざとく品ぞろえをチェックしながら歩く。
「腹へったなー」
「なんか食う?」
敦司はたこ焼きの屋台の前で立ち止まる。ソースではなく、醤油やあんかけといった和風味が売りだそうだ。
俺もお菓子だけ食べて生きているわけではないから、いっしょに買うことにする。
げっ、て顔をした。
屋台のおじさんが、トングで山のように刻みねぎを盛っている。あらら…。いまさらいらないとはもう言えない。
海に張り出したテラスのような場所の段差に適当に座る。まだ花火は始まっていなくて、あたりは日の名残りで明るい。夏の、夕方。
「食ったげる」
箸を伸ばして、ひょいひょいとねぎを俺のたこ焼きの上に移す。
このときばかりは、敦司はされるがままになっていておかしい。
敦司はねぎが大嫌いだもんね。
「意外といろんなとこに入ってるもんな」
ねぎがメインの料理ってのはそんなにないけど、さりげなく紛れていることは多い。
それをよけてあげるのは、俺。
そんな些末なことですら大事だった、今の俺には。
「…サンキュ」
きまり悪そうにつぶやく。
子どものときみたいな表情だと思う。もう、声も背も腕の太さも、何もかも違っているのに。
俺はちょっぴり満足する。
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