はじめてのおでかけ

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浮かれた俺は、かき氷やらあんず飴やらを立て続けに買う。その場で食べられる量にはかぎりがあるから、持ち帰れる駄菓子なども買い込む。 敦司はあきれたり、味を想像して胸やけを起こしたりしながらついて来る。 「おお、もりしーじゃん!」 わんこのかたちのベビーカステラを、10個買おうか20個にしようか悩んでいると、背後から大きな声がかかった。 振り返ると、敦司の高校の制服姿が5、6人。 「来てたんかー、あっちに石井たちもいたぜ?」 「…ごめん、ちょっと待ってて。同じクラスのやつら」 俺は、わかった待ってるって答えて敦司を見送る。見送るったってすぐそこだけど。 森山だから「もり」はわかる。「しー」はどこからだ? あつしの「し」? そこには、俺には知りようのない高校の友達とのやりとり、おおげさに言えば歴史があるんだろう。 敦司の高校の制服は平均的なデザインだ。 今は夏だから着てないけど、黒がかった紺色のブレザー、ストライプの入ったえんじ色のネクタイ。ブレザーと同じ色のスラックス。 敦司の制服姿は、遠くから見たことしかない。 俺が見ていたのを、敦司は知らない。 絶対に秘密だ。 となりのやつがスマホの画面を差し出すと、敦司が体を傾けてのぞき込む。楽しそうに笑った。 俺なんて会ってすぐ、不機嫌モードにさせたってのに。 俺の知らない、敦司の数年間。 小学校高学年の頃からじょじょに、そして同じ中学に上がった頃にはまったく話さなくなった。挨拶すら交わさなくなった。 理由は単純で複雑。 そこに関して、敦司は何も悪くない。 声が低くなった。のどぼとけが突き出て、肩から腕にかけて筋肉質になった。ふくらはぎがひきしまった。 当然の成長過程だ。 発育が遅くてちびっ子だった俺は、敦司がいきなり違う生き物になってしまったように感じた。 まきちらされる「男」の匂いに、大いに戸惑った。 数年もしないうちに当然、俺もそんな「オス」に変わっていって、それはますます俺を動揺させた。 で、俺は逃げた。 もしも、ちいさな頃と変わらずにちゃんと話したり、遊んだりできてたら。 同じ高校に進むという選択肢もありえたのだろうか。学力自体には大差ない。 同じ高校に通っていなくても、もっとコミニュケーションを取れたのかもしれない。 最近はそんなことをよく考える。 進路を考えなきゃいけない時期に、過去の話なんかを。 「ごめん、晃士。ガッコの特講の時間変わったの俺、知らなくて聞いてた」 「屋台のお兄さん、おまけしてくれたよ」 戻って来るの、遅くない? あいつらといっしょに回ろうぜとか言われたら…俺は帰るぞ。 「…仲いいの?」 「住んでるとこ近いから、いっしょに帰ったりするやつら」 へえ、そうなんだ。 あいつらは、敦司みたいなでかくて雑な男が、ちまちまと刻みねぎをよけるって知っている?
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