箒の習熟度試験

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箒の習熟度試験

 まずは、名簿順に軽く箒に乗って、準備運動をした。  それから、名簿順に学校の魔法の森の隅っこに集まる。  魔法の森は動く樹があったり、急に(つる)を伸ばして足を掴んでくる植物があったりするんので普段は立ち入りを禁止されている。  今日は、先生方が、あまり危険な植物には魔法をかけ、眠らせてあるのでいつもよりは楽に通れるはずだ。  ただ、すべての植物が眠っているわけではないので、そこは気を付けなければいけない。  最初の生徒はアイダ。あまり箒の扱いは上手ではないが、3年生なのでそれなりには乗りこなせる。2年生の時より上手になったか、先生たちは目を光らせる。  アイダが捕まえる魔法動物は羽の生えたネズミだった。スピードはあまり出ないのだが、小さいので森の木々の細いところにまで入り込まれると見つからなくなってしまう。  とにかく、見失わないように早めに捕まえるのがコツだ。  先生がネズミを投げた。すぐにアイダが追いかける。アイダは上手い事にまだ森の木々が混みあう前に大急ぎで追いかけてネズミを捕まえることができた。  次々と生徒たちが魔法動物を捕まえて行く。中にはぎりぎり森を一周するところまで魔法動物を捕まえられない生徒もいたが、森の木々に阻まれながらも最後まであきらめずに動物を追いかけたので、落第することはなかった。  ナールは箒の習熟度も高かったので、先生はナールのペットの猫に強い翼をつけて森の方に投げた。  ナールはまさか自分のペットが使われているとは知らなかったので大急ぎでペットのカッツを捕まえに飛び出した。  カッツは翼が無くても、元々外に出してしまうとすごいスピードで木に登ったり飛び移ったりするのでそこに翼がついていたらきっと見失ってしまう。  このまま帰ってこなくなったら大変だ。  カッツは森の中の最初の木に登って、いつもより遠くまで飛んだ。自分に強い翼がついていることを知っているように。  ナールは必死で追いかけた。カッツの姿は森の樹に見え隠れしてなかなか追い付けない。  森の樹もナールにいたずらを仕掛けてくるし、カッツは樹の中腹当たりの枝を飛びぬけてゆく。  ナールは必死で追いかけるのだが、飛びづらくてなかなか追い付けない。これでは森を一周してしまう。  ナールは少し考えて、森の上の方に飛び抜けた。  樹々の茂る中に少しだけ空間の空いている場所があるのだ。  そこをカッツが通るときに急降下して捕まえる作戦に出た。  しっかりと計画通り、カッツを捕まえた。  箒をそのように急降下できるのは3年生ではナールしかいないだろう。  先生たちはしっかりと『優秀』のハンコをナールに押してくれた。  さて、次はカルロだ。  カルロはナールよりも更に箒の習熟度が高いので、先生方はどんな魔法生物にするかを考えに考えた。  そして、とても素早くて小さい魔法使いの眷属のミニ蝙蝠を飛ばすことにした。  ミニ蝙蝠はスピードもあり、何より体調が5cmととても小さいので捕まえることは困難だと思われた。ただ、もし、捕まえられなくてもカルロが最後まであきらめずに追いかけることができれば『優秀』と認めることにしていた。  先生がミニ蝙蝠を飛ばした。  カルロが急いで追いかける。  ミニ蝙蝠はすごいスピードで森の中を飛んで行く。このスピードではあっという間に森を一周してしまいそうだ。  カルロは自分の身をきゅっと細くして、箒に貼りつくようにして針のようになり、スピードを上げた。  森の樹々も、ミニ蝙蝠にもカルロにも気づけないほどのスピードだった。  もうじき森を一周してしまう。という所で、カルロは見事にミニ蝙蝠を捕まえることができた。  クラスのみんなもカルロのあまりのスピードに、歴史の授業での恨みを忘れ、拍手を送った。  先生も『優秀』のハンコをカルロの成績表に押した。  さぁ、これで、全員の進級が決まった。  夏休みが過ぎたらみんな揃って4年生になれる。楽しくて長い夏休みまでもう少し授業はあるが、みんなの頭の中はすっかり夏休みの計画でいっぱいになっているのだった。 【了】
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