第2章 幸薄《ばっこう》の馮琳。

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第2章 幸薄《ばっこう》の馮琳。

時は遡る事少し前の… 西暦197年05月05日の事…。 馮琳「…大きな街ですね?」 袁術の勢いに根負けした馮琳が、 連れて来られた場所は… 袁術が今から約4ヶ月前の01月01日。 誰の許しもなく勝手に建国した仲王朝の都・寿春(じゅじゅん)である。   袁術「街ではなく国だ。 ここは儂が建国した仲という王朝。 そして…ここは寿春。首都だ…」 本人はどや顔をしながら勝手な事を 主張してはいるが…仲は支持率0の王朝と言っても過言ではないのである。 何故なら… 劉纖とは遠縁である劉協が、 曹操の傀儡(かいらい)〈=操り人形〉とは申せども…献帝として未だ在位しているからである。 袁術「漢王朝の命運など既に尽きた! この儂こそが帝位に就くべき存在だとこの伝国璽も示しておる!」 もっともらしい言葉を連ねてはいるが 元々、この伝国璽を拾ったのは孫策の父親である孫堅だった。 しかし… 伝国璽は災いを生み孫堅は、 それを狙った劉表により討たれ… 最期の時を迎えてしまった。 孫堅はまだ幼い孫権…字は仲謀を その災いから守るために歳の離れた兄・孫策…字は伯符に伝国璽を渡し いずれ袁術へ伝国璽を渡すように… 命じるとそのまま力尽きてしまった。 袁術の元で力を溜めていた孫策を 気に入っていた袁術は娘である袁鈴(えんりん)…字は鈴玉(リンユー)を孫策の正室として嫁がせようとしていたのだが… 周瑜「…それは辞退するべきだ… 袁術などが伯符にとって義理の父親になったら…伯符が色々遣りづらくなるであろう…」 周瑜…字は公瑾の助言を受けた 孫策は父親の墓参りと称して孫堅が生きていた頃から孫家に仕えている家臣達を伴い袁術の元を去った。 その孫策が置き土産として袁術の元にわざと置いて行ったのがこの伝国璽。 それはさておき…。 仲王朝の後宮を前例なき派手で豪華な後宮にしたいと考えていた袁術が… 中華全土を東奔西走(とうほんせいそう)〈=仕事や用事のため東へ西へとあちこち走り回ること〉して作った仲王朝の後宮に馮琳が入内したこの日…。 袁術「雪梅よ、そなたはどの女性よりも美しい…。永遠に朕の側で咲き続けておくれ。」 袁術は馮琳に与えた局〈=后の部屋〉で入り浸っていた。 いつの世も…どこの場所でも… 新参者は残念ながら嫉妬や妬みの対象にされてしまうのが運命(さだめ)董泉(とうせん)「陛下の寵愛を新参者である人間が独り占めするなんて許される事ではないわ…。」 董泉(とうせん)…董卓の遠縁に当たる娘で何とか連座は免れたものの董家に対する風当たりは強く同じく嫌われ者の袁術が作った後宮に入内した。字は…花琳(ファリン)。 しかし… 性格が極めて悪い事もあり、 袁術が局を訪れた事は…皆無。 郭珠(かくじゅ)「あり得ませぬ…。 右も左も分からない小娘なぞが陛下に寵愛されるなんて…」 郭珠(かくじゅ)…董卓と共に世の中をめちゃめちゃに荒らし回った配下である郭汜(かくし)の遠縁でこちらも 世論の風当たりが厳しく…袁術を頼りに後宮へ入内したが…こちらも董泉の顔色ばかり伺っている事もあり…局へ袁術が訪れた回数はこちらも皆無。字は智愛(ヂーアイ)。 それからも袁術は董泉(とうせん)達が袁術の寵愛を一身に受けている馮琳に対して怒り狂っている事など知る由もないからか毎日馮琳の局に通い詰めておりました。 それから2ヶ月後の 西暦197年07月07日…。 劉纖(りゅうせん)は、 仲王朝の後宮…にはさすがに忍び込む事が出来ませんのである方法で内部に侵入する事を決めた…。 それは… 紀霊「私の配下として仕えながら、 武芸の道を極めたい…とは熱心な理由だな…。宜しい…!」 袁術の配下として仕える武将の中で、 それなりに話が分かる武将である紀霊の配下として仕えながら馮琳を取り戻す機会を狙う事にしたのである。 紀霊(きれい)は将軍でありながら 袁術が人望の薄い事もあり軍師の代わりとしても働いている極めて忙しい武将なので配下が増える事を単純に喜んでいた…。 劉纖『これで雪梅を守りながら、 隙を見て連れ戻す事も出来るだろう…。』 実は、劉纖…。献帝から秘かに 間者(かんじゃ)〈=スパイの事〉として袁術についての情報を仕入れる事も 命じられていた…。 まさに… 劉纖『不入虎穴,焉得虎子』 訳〈虎穴に入らずんば、虎子を得ず〉 意味〈リスクを冒して行動しなければ大きな成果を挙げる事は出来ない。〉 紀霊「…無論、後宮に入内しておられるお后の皆様をお守りするのも我らの任務である。我らに向けられた敵意の数を考えると…激務となるだろうな…」 紀霊は…頭を抱えながらも 劉纖を案内(あない)していたのだが…その理由はすぐ分かった…。 何もしない割に美女の事だけは… ちゃっかりしている袁術が中華全土をくまなく探した事により… 劉纖「将軍、後宮には何人くらいのお后様が入内なさっておられるのでしょうか?」 劉纖が后の数を尋ねると紀霊は、 何故か機嫌を損ねてしまった。 それは… 紀霊「…後宮にいるお后様の数…?そんなもん、知るか!そんなもんいちいち数えていたら100年くらい軽く経過してしまうわ!」 袁術は政など何もしない偽皇帝だが 美女集めに関しては…これまた熱心で 后の数など配下である紀霊も把握出来ない程いた…。 劉纖「そんなに… お后様がいるんですか?」 劉纖が全体数を把握する事は、 難しいだろうと思いながら… そんな発言をすると… 紀霊「…と、言っても陛下の寵愛を一身に受けているのは(フウ)雪梅(シュェメイ)という名前の女性で皇后に推挙されるのも時間の問題とか言われているなぁ…。」 紀霊から告げられたのは劉纖にとって 何よりも聞きたくなかった言葉。 劉纖の脳裏に浮かんだのは… 劉纖「…幸せだな…」 馮琳「…幸せですね…。」 世間一般的な恋人同士ではないが… 歪な関係ながらも幸せだったあの日々 劉纖が4ヶ月程前にはなるが 自身の脳内に残る馮琳とのセピア色した記憶に心を熱くしていた同じ頃。 馮琳「…?」 馮琳の局では最近、 不可解な事件が度々起きていた。 それは… 袁術から貰ったド派手な服が、 ビリビリに破られていたり… 袁術から貰ったこれまたド派手な 頭飾りが木っ端みじんに折られていたり… 袁術から貰ったこちらもまたド派手な湯飲みがまたもや木っ端みじんに砕かれていたり… 蝶凌(ディェリン)「…またですか? さすがに…どうしてこんな事が続くのでしょうか?」 蝶凌(ディエリン)…馮琳付きの宮女で馮琳の事を誰よりも案じている。 すると… 郭珠(かくじゅ)「まぁ…馮貴妃。 どうなさいましたの?何かお悩みでもございますか?」 袁術は馮琳をいずれは皇后にするつもりで今は…貴妃(きひ)という階級を与えて、寵愛をしていた。 郭珠『こんな…何も考えてないような女に皇后となられるなんて…あり得ませぬ…。何とかして排除する…。』 笑顔を見せながら近づいても 腹の中では何を考えているのか 分からないのが…人間の恐ろしさ…。 董泉(とうせん)「あら?どうなさったのかしら?馮貴妃。」 郭珠と董泉は親類が世を乱した事もあり袁術の庇護がなければ生きる事すら危ぶまれてしまうような状況。 董泉『私達のように親類が世を乱した者達はこの場所すら生きる道がない。新参者なぞ…消えれば良い!』 笑顔の裏で腹の中では口にするのも 恐ろしくなるような言葉を平気で口にするような恐ろしき者達…。 純粋過ぎる性格とお嬢様という 生い立ちも関係し周りが過干渉過ぎたせいで考える事の出来ない馮琳。 馮琳「私は考える事が出来ないので、 良かったら…皆様、教えて下さい。」 偽りの笑顔を見て すっかり信用してしまった馮琳は… 自分の致命的な欠点までも ベラベラと話してしまった…。 郭珠「…陛下はいつも涙を流している心の優しい女性が大好きですからいつも涙を流されていては如何でしょう?とても良い考えだわ…!」 馮琳「…そうなのですか?では…実行してみますね。ありがとうございます、郭美人。」 郭珠と董泉が馮琳に対して怒り狂うのは后の階級に関しても不満があった事も大いに関係していた。 董泉と郭珠よりも新参者である馮琳が 皇后も見据える事の出来る貴妃の座に就いて…董泉と郭珠が美人など… 董泉『納得出来ぬ!』 郭珠『同じく…』 腹の中では怒り狂っている2人だが 袁術が馮琳への寵愛を無くせば… きっと…と思い前述したような事を 提案したのだが… ここで頭に浮かぶのは1つの疑問符。 〈誰が思い悩んで涙を流しながら… 物思いに(ふけ)る人間を好く事など出来るのだろうか?〉 そんなものは誰もいない…。 まぁ…人間なのでものの好き好きに個人差はあるでしょうが…そんな人が、好きだと答える者はきっと少ない……はずだ…。 そう、これはまさに… 袁術の寵愛を一身に受ける馮琳への嫌がらせ…だったのである。 郭珠『そんな暗い女なんか誰が好きになるのよ…?あり得ぬわ…!』 董泉『美しい容姿しか取り柄のない人間など陛下から嫌われたら良い。』 しかし… 馮琳はその企みに全く気づかず 2人が考えた作戦を実行した。 袁術「…久方振りじゃなぁ…!」 袁術は07月20日まで紀霊に懇願されていた事もあり馮琳の局には行けずにいたのでお渡り禁止令が解除された途端 慌てて馮琳がいる局へと 急いで向かった袁術だったが… 馮琳はまん丸の満月見つめながら… 何を憂いているのかは分かりませんが そのような表情を浮かべていた…。 と、言うより… 馮琳は何も考えておらず郭珠や董泉の言葉通り憂いているように見せているだけであった…。 袁術「…2週間程逢えなかったので… 寂しかったか?すまぬ…。そんなに寂しそうな顔をしないでおくれ…。」 袁術もまた正室の子として苦労などせずに育てられた事もあり馮琳と似たところがあるのか…どちらにしても郭珠と董泉の読みは外れ…袁術は馮琳を嫌うどころか更なる愛情を注ぐようになった…。 世間一般的な人達とは残念ながら 違いすぎる2人は… 袁術「雪梅、可愛い服はどうか…?」 馮琳「まぁ…ありがとうございます。」 袁術「可愛い服でもそなたの憂いを何とかする事は出来ぬか…?」 更に絆を深めてしまい… 郭珠「…!何たる事!?」 董泉「…!斯くなる上は…!」 郭珠と董泉の魔の手は… 更に激しさを増し…その数を増やし 馮琳へと襲い掛かろうとしていた…。
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