第2章 幸薄《ばっこう》の馮琳。

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蝶凌はまず… 紀霊将軍に全てを打ち明けた…。 蝶凌「皇后陛下は純真無垢で何も御自分ではお考えにならないので…心ない人達に騙されてしまうのです…。」 蝶凌は身分の低い宮女の中でも更に身分の低い宮女で誰も宮女として局に引き入れようとはしなかった…。 そんな蝶凌を笑顔で迎え入れたのが、 馮琳で蝶凌の身分の事など一切触れない彼女に蝶凌は…救われた…。 だから…あの無垢な人を守る為なら どんな事でもするつもりだった…。 但し… 宮女としても身分の低い蝶凌が出来る事などただ1つだけであった…。 紀霊「なるほど…。それは… 陛下に報告する必要がありますね。」 袁術の信頼厚い将軍兼軍師を兼務する 唯一の将軍に相談する事のみだった。 但し… 後宮は皇帝が美人を侍らす為の場所で 何をするのも皇帝からの許可なしには誰も手出し出来ない場所なので… 結果的に後宮にいる者達の 態度を改めさせる事が出来るのは… 袁術「…朕の雪梅が…後宮にいる女達の嫉妬と嫉みにより騙された…とは如何なる事だ!?」 蜂蜜を水の中に入れて飲んでいる 喉に詰まりそうな変な飲み方をする 困った袁術しかいなかった…。 紀霊「…陛下、興奮なさるか蜂蜜水をお飲みになるかどちらかになさいませ。」 袁術「…しかしなぁ…ゴホッ…。 ゴホッ…!エッヘン!」 馮琳の事になるといつも冷静ではないけれど更に空回りしてしまう袁術。 それはさておき… 紀霊から話を聞いた袁術は 喉の調子がそれなりに落ち着いてから 突然、後宮内にいる女性達を 広間のような場所へ全員集めた。 董泉「もしや… 私を昇進させて下さるのかしら?」 郭珠「いいえ… 私の昇進が先ですわ…」 孫華「…」 今回の陰謀劇を策略したも 当然の3人は何食わぬ顔をして 他の妃達の前へ現れた…。 すると… 袁術「誰が朕の可愛い可愛い雪梅を騙したのだ?純真無垢で可愛く人を疑う事を知らぬ彼女を騙すなど…!朕は絶対に許さぬ!」 袁術は怒り狂いながら それから暫しの間説教と 馮琳の惚気話をしていた。 袁術「雪梅がどれだけ可愛いのか お前達は知らなさすぎる…。」 行きつ戻りつする恋敵の惚気話… そんなものを聞いて楽しいと 感じる者など誰もいない…。 董泉と郭珠、孫華の策略と同じく こちらもすっかり裏目に出て… 馮琳に対する嫉妬と嫉みを 更に強めてしまった事など… 袁術「朕が知る雪梅の良さを皆が 知れば世界は平和になるであろう…」 自分の世界に入り込んでいる この男は知る由などなかった…。 その日の夜…。 袁術の独りよがりだった惚気話を 長々と聞かされたかと思ったら… 今度は何の前置きもなく いきなりお説教をし始める袁術。 昼間の出来事を… 心底面白くないと感じたのは、 董泉と郭珠、孫華を中心とする 後宮の女達であった…。 董泉「面白くないわ…。あんな奴の惚気話にどうして二刻〈=現在の時間にすると2時間〉も使うのかしら?」 郭珠「無論、同じ想いですわ…。 あんな奴の惚気話を聞くなど…時間の無駄遣いだとしか思えません。」 どうやら袁術のした事は、 董泉達の嫉妬心を更に燃え上がらせ 馮琳の身を危うくさせただけ…。 董泉「斯くなる上は奴が自殺したように見せかけて命を奪うのよ…」 董泉は今までの事が 全て裏目に出た事もあり 自暴自棄(じぼうじき)になっており 極めて恐ろしい事を口にした。 郭珠「でも…どうするのです?霊帝の皇后であられた何皇后も王美人に同じ様な事をして霊帝の怒りを買い殺されそうになったらしいではございませんか?私は死にたくありません…」 人の命を奪う算段をしている董泉に 対してさすがに恐さを感じたのか… 郭珠は今になって 初めて弱音を口にしていた…。 董泉「…智愛、そんな弱気でどうするの?幸いな事に我が王朝の皇帝は、 霊帝のように聡明ではないから分かるはずがないわ…。」 自らの保身の為に皇后となった女の命を奪う算段をしたかと思えば共犯となっている女の不安を拭い去るために 夫である袁術の悪口を言う女。 孫華『だから… 階級が美人なのではないのかしら?』 賢妃の階級を与えられている孫華は、 美人の2人よりも早く皇后になるのは約束された未来だった…。 仲王朝がほろびたりしなければ…という但し書き付きではあるが… 劉纖からの文が許都に届いている事もあり献帝は既に怒り狂っていた…。 献帝「荀彧!」 荀彧「はっ、陛下。 お呼びにございますか?」 献帝に呼ばれて頭を下げているのは、 曹操に仕える軍師・荀彧…字は文若。 献帝「劉纖からこのような文が来た。 袁術が…朕に代わって皇帝を名乗っておるそうだ…!これは朕に対する侮辱ぞ!」 荀彧「陛下、お気持ちは分かります。 では…我が主に伝えて参ります。」 荀彧に呼ばれた曹操が玉座の間を尋ねると献帝は既に打倒袁術の檄文を書いていたが… 曹操「陛下、お気持ちは分かりますがまだ天下には呂布がおります。呂布を倒さなければ袁術と結び仲王朝を滅ぼすのは不可能となります。まだ時期尚早でございます。」 呂布(りょふ)の名前を聞いた献帝は その姿を思い出したのか玉座に座りながらも小刻みに震えていた。 曹操「陛下、呂布を撃退してから 袁術を倒す算段をしておりますので 万事この孟徳にお任せ下され…。」 袁術軍の将軍と軍師を兼務している 紀霊は曹操が考えている最悪のシナリオを現実のものにするために水面下で行動していた。 紀霊「呂将軍、仲王朝の太子と将軍のご令嬢を娶せるのは如何でしょうか?もし可能でしたら大金もお納めしますよ?」 呂布「うむ…。しかしだな…。 陳宮に相談しなければ後で大変な目に遭わされるからなぁ…」 呂布は言葉を濁したまま… この件はそれ以上発展しなかった…。 曹操軍の脅威が確実に迫っている事など知りもしない袁術は… 袁術「派手な服は気に入らんか? ならば…そなたのように控えめな淡い色の服ならどうじゃ?」 馮琳のために毎回服を仕立てて 馮琳の局は服だらけとなっていた。 それでも… 毎回服を届ける袁術の機嫌を損ねないように蝶凌は頭をフル回転させて何とか置き場所を作っていた…。 そんな蝶凌の苦労を知っている馮琳ではあるのだが罠に嵌まり泣き続けていた事でこの頃になると… 馮琳「うっ…う…。陛下… 本当にありがとうございます。」 袁術と逢っている時以外でも涙が自然と出てしまうすっかり泣き虫な皇后となっていた。 袁術「そうか…。 雪梅が泣くほど嬉しいのなら… 朕も満足じゃ。」 馮琳と袁術の絆は周囲が妬めば妬む程 更に深まっていったのでございます。 董泉「次こそは破滅させてやる~!」 郭珠「あんな奴が皇后だなんて… あり得ない!」 孫華「…」 そして時は流れ 西暦197年10月10日となった。 董泉と郭珠、それに孫華が主となり 邪魔で邪魔で仕方のない馮琳を誅殺する世にも恐ろしき計画が企てられた。 それは… 董泉「皇后陛下、ずっと後宮内にいても仕方ないから少し外へ出て来られては如何かしら?」 馮琳「董美人、外に何かあるのでしょうか?陛下に良くして頂いているので陛下の為に何かしたいのですが…?」 馮琳は何度も騙されたというのに… またしても董泉に胸の内を告げた…。 董泉『あんたは陛下から新しい服を貰えるかも知れないけど私は母親の形見の服を宮女に直して貰いながら使っているのよ…!あんたの自慢話なんか聞きたくないわ…!』 董泉は胸の内で馮琳に対する毒を吐きながらも馮琳を信用させるため笑顔を作りながら作り話を話し始めた。 その話とは… 「実は寿春の宮殿を出て峠の方へ、 少しだけ歩くと小さな湖があるの…」 名前のない小さな湖は 確かに峠の方へ少しだけ歩くと あるのはある…。 ここまでは実話でここから 先が董泉の考えた作り話である。 董泉「その湖の中に陛下が 大好きな華が咲いているの…。」 残念ながらその小さな湖は、 人間達がゴミ箱代わりにゴミを捨てているので華が咲くはずなどない…。 華どころか汚すぎて 魚も泳がない小さな湖なのである。 「水面華って言うのだけど根気よく湖を見ていないと気づかないから夕方くらいまで湖の近くにいると良いわ…」 そこは夕方になると狼の群れが 峠から食糧を探しに現れる 危険な場所であった…。 馮琳「はい、分かりました!」 董泉『もし何か遭っても後宮を抜け出した罪の方が重いのだから私は知らないわ…。罪深き皇后に罰を…!』
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