21人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいま」
その声に胸が疼くのはなぜだろう。自分と同じくらい甲高いと思っていた声も、いつのまにか低くなっていて、まるで知らないひとのように思えてしまう。
けれど、愛嬌あるまるい瞳や女子のように白い肌は五年前と変わっていない。それに。
「唯子……いや」
その名を呼ぶのは、彼だけだ。
「暁姫」
小声で囁かれ、唯子は首を横に振る。
「だめよ、善哉」
「唯子こそ。その幼名に意味はない。おれだってあれから元服してちゃんとした名を授かったんだ……いまはその名を公にすることができないが」
ぽつり、と淋しそうに付け加えられ、唯子はいたたまれない気持ちになる。
「ごめんなさい」
「おまえのせいじゃない……でも」
気まずそうな表情を浮かべる彼に唯子は戸惑いを隠せない。
「これから先、おれとふたりでいられるあいだは、真実の名を呼び合いたい……駄目か?」
唯子は瞳を見開き、背が伸びた彼を見上げる。この、嘘で塗り固められた世界を、彼は自分で壊そうとしている。驚いて、唯子は首を振ることすら叶わない。
「……そうか」
最初のコメントを投稿しよう!