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「ただいま」  その声に胸が疼くのはなぜだろう。自分と同じくらい甲高いと思っていた声も、いつのまにか低くなっていて、まるで知らないひとのように思えてしまう。  けれど、愛嬌あるまるい瞳や女子(おなご)のように白い肌は五年前と変わっていない。それに。 「唯子……いや」  その名を呼ぶのは、彼だけだ。 「暁姫(あきひめ)」  小声で囁かれ、唯子は首を横に振る。 「だめよ、善哉(ぜんざい)」 「唯子こそ。その幼名に意味はない。おれだってあれから元服してちゃんとした名を授かったんだ……いまはその名を公にすることができないが」  ぽつり、と淋しそうに付け加えられ、唯子はいたたまれない気持ちになる。 「ごめんなさい」 「おまえのせいじゃない……でも」  気まずそうな表情を浮かべる彼に唯子は戸惑いを隠せない。 「これから先、おれとふたりでいられるあいだは、真実の名を呼び合いたい……駄目か?」  唯子は瞳を見開き、背が伸びた彼を見上げる。この、嘘で塗り固められた世界を、彼は自分で壊そうとしている。驚いて、唯子は首を振ることすら叶わない。 「……そうか」
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