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北条政子の命によって、近江の園城寺で修業していた源公暁は、鶴岡八幡宮の別当となるため鎌倉へ戻ってきた。
それは建保六年、青水無月のこと。
けれど彼はほんものの源公暁ではない。
秘密を知っているのは、幼いころから乳兄妹としてともにいた公暁と唯子、尼御台として恐れられている北条政子と鎌倉の有力豪族である三浦義村、そしてこの地に幕府をひらいたいまは亡き源頼朝と二代将軍頼家のみ。
「……とはいえ、いつまでもこのままにしておくことはできんぞ?」
しんと静まり返った大倉御所の釣殿に、しわがれた老婆の声が響く。すべては亡き夫のため、そう信じて鶴岡八幡宮の巫女の神託に従ったが、あれから十五年以上の歳月が過ぎている。
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