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 その間に鎌倉では幾度も血で血を洗う争いが起きた。源氏の血統を絶やさぬためという大義名分のもと、自分と相反する御家人たちを次々謀殺し、あげく政所別当として三代将軍源実朝を意のままに操っている弟を見るたび、このままではいけないという焦りに苛まれてしまう。たしかに北条氏が権力を保ちつづけるのは悪いことではない、けれど自分と愛するひととの間に生まれた子どもが蔑ろにされるのは見ていて居たたまれないのも正直な気持ちである。 「おばあちゃま?」  ジジジ、と平仄の橙色の炎が灯芯を舐める音とともに、どこか場違いな幼い少女の声が政子の耳底へ堕ちる。 「鞠子(まりこ)か。もう夜も更けたというのに、まだ起きていたのかえ?」 「だって、お兄さまが戻っていらしたって。鞠子はお兄さまとお話したかったのです」  舌足らずな口調で話す少女は、まだ兄の顔を見ていないのだと不服そうに政子へ零す。だから夜中にこっそり自分の(へや)を抜け出して探しに来たのだと悪びれることなく説明する。 「公暁なら、戻っておらぬ」  政子は呆れたように顔を向け、鞠子へ素っ気なく事実を告げる。 「――三浦邸、ですか」
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