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 不服そうに唇を尖らせ、鞠子は呟く。それを見て、政子は表情を変えることなく首を振る。 「そう、ですか……お兄さまは、まだあの忌み姫のことを」  鞠子は口惜しそうに言葉を吐くと、政子に一礼してすごすごと引き下がっていく。  その後ろ姿を見送りながら、政子は苦笑を浮かべる。その様子を隠れて見ていたもうひとりに向けて、淋しそうに告げる。 「鎌倉を滅ぼすのは、本意ではありませぬ」 「貴女ならそうおっしゃると思いました。けれど、どっちにしろ彼を呼び戻した時点で、彼女に影響が及ぶのは目に見えております」  自分は彼の助言をもとに公暁を鶴岡八幡宮の別当にするために鎌倉へ呼び戻しただけだ。けして三浦家の姫と娶せるためではない。  けれど僧としての修業を行う身でありながら剃髪もせず、故郷へ戻っても家族の元に留まる間もなく幼いころからともに育った少女に逢いに飛び出して行った彼を見て、そう遠くないうちに還俗して妻を得るつもりなのだろうと噂する御家人たちも確かに存在する。
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