第五章 休息②

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「てかアヤカちゃんは、どうやって海豚のこと好きになったの?」 「え!?私!?」 「そうですよ、次はアヤカさんの番ですから」  風呂から脱衣所に移動した女子メンバー。お風呂で温まった体が冷えないうちにそそくさと着替える中、思い出したように奈々がシエに顔を向ける。 逃げるなんてずるい、とでも言いたげにシエは便乗して頬を膨らませた。 恋バナが好きなアヤカも流石に自分の話になると弱いらしく、「えーーーっと……」と誤魔化すように視線をよそへ向ける。 が、いくら誤魔化そうとしたところで意味などないのだ。きっと諦めてはくれない。 それに、さっきシエに問いただしたうちの一人としては自分だけ逃げるのはどうも罪悪感が出てくるというもの。 自身を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸を一つ。 「今は大丈夫だから心配しないで欲しいんだけど……昔、呪いの子としての自分が嫌になって屋上から飛び降りようとしたの。で、フェンスに手をかけた時に海豚っちが倒れてるとこが見えて……。んで、駆けつけた先で出会ったの」 「へ〜ぇ??」 それはそれは楽しそうにニンマリと頬を緩ませる一同。 変に羞恥心を煽られないようアヤカはなるべくそれを見ないようにして、「それで?」と促されるまま再び口を開いた。 「そこで……「お前の能力のおかげで助かった」って言ってくれて……。その時泣いちゃった私の頭を、私が落ち着くまで撫でてくれたり、ちょっと怖い見た目なのに実はすごく優しいんだなって分かったら、その……」 「恋に落ちちゃったわけだ〜??」 待ってましたと言わんばかりに何トーンか上げた声で騒ぎ始める奈々と、熱でもあるのかと思うほどに熱くなった顔を両手で隠すアヤカ。 気持ちは気づかれていたのかもしれないが、ハッキリと自分の気持ちを明かしたのは初めてだった。……誰かに恋をしたのも。 こんなにも恥ずかしいものだったのか。今さらシエに対して申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。ごめん、会長。 だが、それ以上に……楽しい。 「……あら?何か嬉しそうね」 「えへへ、分かった?」 「えっ!?表情見てなくても分かるの!?」 見えないんだよね?と不思議そうな姫汐の視線に愛はくすりと小さな笑みをこぼす。 「えぇ。真っ暗よ。でも小さい頃からそうだったから、耳が良くなったり、匂いも人よりは敏感だと思うわ」 「だから分かったりするんですね」 「そそ!」 朱里が感心したように数回頷くのを満足そうに見た後、アヤカはえっへんと胸を張る。 「あとは私たちの付き合いの長さだよね!」 「まだ一年とちょっとでしょ?てか、山口に関しては一年も経ってない」 理恵のクールな言葉がアヤカの胸にグサリと突き刺さった。 フラフラと歩いて壁に手をつくと、効果音が聞こえるほどに分かりやすく落ち込むアヤカ。 こら、と奈々が苦笑いで理恵に顔を向ける。 「なんでそんなこと言うのよ〜」 「べっつにー?」 「まあほら、長さが全てじゃないから、ね?」 「! そうだよね!」 文句を言いたげに口を尖らせる理恵は奈々に任せて、恵美がアヤカを慰めるようにその背をさすった。 恵美の言葉にころっと機嫌を直したアヤカは再び笑顔を取り戻すと、「でも」と愛に顔を向ける。 「愛が努力したのが一番大きいよね。見えない分他に出来ること探したり、なんでもとりあえずやろうとしたり……。愛が頑張ったからだよ」 「ありがとう。でもそれが出来たのは、姉のおかげよ」 「お姉さんいるんだ」 恵美の問いかけに、愛は優しく頷いてみせた。 「小さい時、能力に目覚めると同時に目が見えなくなって……変な力を使っちゃったりもしたから、やっぱり両親にも親戚にも不気味がられてね。施設に連れていかれそうになって「まあ仕方ないか」って思ってたんだけど」 昔のことが昨日のことのように脳裏に過ぎって、愛は柔らかく微笑む。 「姉がね、私を一人で守ってくれたの。それからずっと、目が見えないこととか関係なく色んなことに挑戦させてくれて……だから私もこうして色んなことができるようになったと思うわ。繚乱に入学出来たのも姉が提案してくれたから、本当に感謝してもしきれないの」 「じゃあお姉さんのおかげで私たち出会えたんですね!お姉様ありがとー!」 ぱあっと表情を明るくさせた姫汐が天井を見上げて、そして感謝するように両手を合わせた。 それに続くようにアヤカも手を合わせて「ありがとうございますお姉様!」と声を上げると愛がふふっと笑いをこぼす。  でも本当に、姉が居なかったら間違いなく今の自分はいないのだ。 こうして仲間たちに出会えずに、……どうなっていたのか。考えるだけで恐ろしい。 ​───いずれ、あんたにも大事な仲間が出来るわよ。今は分からなくても、絶対にね。 かつて姉はそう言って、泣いていた私の頭を撫でてくれた。 だから今度は私が、誰かを助ける番。
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