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皆に混ざってわいわいと楽しそうに話すシエを見つめる順。
そんな彼の様子が気になって、奈々はその隣へそっと腰掛ける。
「……ん?どうした?菜々美」
「それはこっちのセリフよ。また莉柚と重ねてたの?」
まあ確かに瓜二つだけどさ、と順の顔を見つめる奈々に、順は小さく首を振った。
「それは大丈夫だ。もう重ねたりしない」
真っ直ぐに見つめてくる順の目からは、もう迷いは見えない。
奈々はほっと胸を撫で下ろして微笑むと「じゃあどうしたの?」と小さく首を傾げた。
順は腕を組んでうーんと唸る。
「なんか、様子がな」
「?どっかおかしい?」
「うーん。全体的にというか、紺沢に対して、なんか……」
そう言われて、シエの方へ顔を向けてみる奈々。
……付き合いが長いわけではないため細かいところまでは分からないが、確かになんというか……あえて見ないようにしているように、見えるような。
そして海豚の方もなんだかいつもより静かな気がする。
知り合ったばかりの自分でさえそう思うのだから、長く一緒にいる順からしてみればあからさまなのだろう。
「何かあったのかしら」
「珍しい二人なんだよな……」
海豚は、理央や順ほどではないがシエと付き合いが長い。
その中で色んな時間を共に過ごし、友人として信頼も積み上げてきた。
会長と情報屋というのもあって特に関わることも多かったはずだ。
そんな二人があんな様子になるのは初めて見る。
何かあったのは分かる。だがそれを普通に聞いていいものか……。
再びうーん、と唸る順を奈々は不思議そうに見つめる。
「生徒会はあんまり揉めたりしないわけ?」
「なかった……な。……ないな」
「何あらためてびっくりしてるのよ」
「そういえばなかったなって」
あんなに個性がバラバラなのによく今まで揉めて来なかったものだ。
ノリのような軽い喧嘩すら数えるほどで、本格的に言い合いする事なんてほとんどなかった。
むしろ元々そんな感じだからこそ喧嘩も何もないのだろうか。
比較的最近あった、海豚の本名の一件くらい。
まあつまりよ、と奈々はため息を吐く。
「それが珍しいの。私たちなんてどれだけ言い合ったか。だから心配する事ないわよ」
「そんなものか」
「そ」
頷いたあと、そういえばと奈々が口を開いた。
「順、あんたアレどうしたの?順の部屋に行ったって聞いたのに何も知らないみたいだったし」
「ああ、それは」
「「何!?」」
二人の間に割って入ってきたのは、それはそれは好奇心で目を輝かせた理央とアヤカだった。
その視線を一身に受けたからには逃げられる気もせず、順は観念したようにため息を吐き出す。
「分かった、分かった。相変わらずうるさい奴らだな」
「あっ!順っちがうるさいって!聞いた!?」
「聞いた!誰がうるさいって!?」
「特にお前だバカ」
「あっ!?こいつ今バカって言いやがった!わざわざ指名までして!くそう、最近なんか髪も短くなって爽やかになったからって調子に乗りやがって〜!」
ぐぬぬ、と悔しそうに歯を食いしばる理央を順はジトリと呆れた視線を向ける。
思えば順と理央の出会いは最悪だった。
彼女である莉柚を亡くしてから生きる意味を見失っていた順は、一年二人が生徒会を引き継いだという噂がなんとなく気になり再び登校した先でシエの姿を見かけ、かつての彼女だと見間違えて思わず抱きついてしまったのだ。
そしてそれを見かけ、戸惑うシエを救ったのが理央だった。
理央からしてみれば人違いで、とはいえ出会ったばかりの順に想い人が抱きしめられたということになり、それからというものの「絶対会長の事好きだろ!」と何かと目の敵にされてきた。
最近、かつての彼女に一途だと判明したはずだが、なぜか未だ目の敵にされているらしい。
それらの過去を思い出し、深くため息を吐き出す。
「というか、川田はその「順っち」って言いづらくないのか」
「え?めっちゃ言いづらいよ?」
「じゃあなんで続けるんだ」
「私といえばその呼び方かなって……」
「気にしてるのかそこ」
アヤカは「えへへ」と少し恥ずかしそうに笑うと、あっと思い出したかのように声を上げる。
「アレって何!?実は部屋に何かあったの!?」
「あー……それはな」
「順は生粋のお笑いファンなのよ。部屋にもブルーレイとかその他もろもろあったはずなんだけど……捨てた?」
「捨てるわけないだろ、サインもあるんだし……ちゃんとあるよ。ただ分かりやすくは置いてないだけで」
「まああん時は俺らもそれどころではなかったよな」
「それはそうなんだけど……」
見たかったなあ、と分かりやすく肩を落とすアヤカ。
奈々はクスリと笑うと「大丈夫よ」と順の肩に手を回す。
「今までバレてなかったのが不思議なくらい笑いにうるさいし、そもそもゲラだからそのうち崩れるわよ」
「ゲラなの!?」
「そーよ。変なところでツボに入るから大変だったの」
「そんなに!?」
次々と明かされる順の素顔にアヤカのワクワクは止まらない。
「そんなに期待するなよ。別に面白いことはない」
「面白いとかじゃないの!順っちのことも、みんなのことも!これからもっともっと知っていきたいから!」
「……そうか」
こちらまでつい笑顔になるアヤカのまっすぐな笑顔。それがなんだかくすぐったくて、順は小さく笑いをこぼした。
そんな順を見つめていた奈々は安心したように微笑む。
順の新しい居場所は、ちゃんと彼が安心する場所となってくれている。
自分が会えなかった間もずっと支えられてきたのだと分かるほどには。
だからもう、心配はいらないね。
これから何があったとしても、このメンバーならきっと。
「……だから、大丈夫よ。莉柚」
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