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第六章 見えた世界
楽しい日はあっという間にすぎるもの。
数日後。今は夕焼けが街を染める中、各々バスから荷物を下ろしていた。
嵐のような出来事だったな、と竜也は荷物を地面に置いて昨日までのことを振り返る。
だがヒロと初めての旅館を楽しめたり、修羅組や生徒会新メンバーとの交流にもなった。
衝撃の事実やそれぞれの過去、色んなことが明らかになって距離が縮まった気がする。
うん。楽しかった。
あらためてそう思って、竜也は伸びをする。
正直、これからの課題は多い。
ブレイカーのこと、清皇学園のこと、組織のこと……。
そう思うとやはり様々な事件が自分中心で回っている気がして、竜也は気持ちが曇るのを感じた。
もしかしたら自分が離れれば、少なくとも組織や清皇の追っ手が生徒会に向くことは無いのでは。
今ここにいるのは自分のワガママでもある。
だからこそ、これからも一緒に居るからには今まで以上に向き合う覚悟が必要なのだろう。
散々忌み嫌っていた自分の過去や知識は、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。
一緒にいるために。仲間を守るために。
そういえば、ブレイカーと思われるあの修羅を操っていた男。
アイツは自分と同じ学校、つまり清皇に通っていたと言っていたような。
あの学園のことは、いくら情報屋の海豚や香偲が調べても何も出てこない可能性が高い。
唯一可能性があるなら、自分が清皇に接触して話を聞くことか。
……竜也は目を伏せる。
向き合わなければ。逃げてはいけない。
自分に出来ることなら。自分にしか出来ないことなら、動くしかない。
守りたい。それは自分が思っていることなのだ。
これ以上……誰かを失うのは嫌だから。
脳裏によぎる親友、佑馬の笑顔。守れなかった、大好きな親友。
今度こそ失わないために。
「竜也さん?」
シエの声が聞こえて顔を上げる。
不思議そうに首を傾げる彼女を見つめて少し目を伏せてから、「あのさ」と重い口を開く。
「修羅組を操ってたブレイカーの男。もしかしたらアイツのことが何か分かるかもしれない」
「えっ?」
「……俺と同じ、清皇に通ってたって……あいつは言ってた。歳近いように見えるから会ったことはあるのかもしれないけど、他のクラスのことあまり見てなかったから……。でも、清皇に接触したら少しくらいはブレイカーについてなにか分かるかも」
断言は出来ないけど、という竜也を、シエは心配そうに見つめる。
清皇に接触。
それが、竜也にとっていかに辛くしんどいことなのか。きっと想像しているよりはるかに勇気や覚悟がいることだろう。
だがブレイカーの情報が欲しいのは確かだ。
とはいえ……任せていいものか。
俯くシエの頭を、海豚の手が撫でる。
「おーい、あんま思い詰めんなよお二人さん」
「海豚さん……」
「まずは相談しろっての。報連相、大事。分かったか?」
そう優しく微笑むと、海豚はゆっくりと竜也へ顔を向けた。
「……大丈夫なのか?」
真剣に、しかし心配そうに見つめてくる海豚。
竜也は目を伏せて少し黙ったあと。意を決したようにまっすぐ海豚に視線を向ける。
「俺はもう……誰も失いたくないんだ。そのためならそれくらい、なんともないよ」
「……そうか。分かった」
大きいため息を零してから、海豚は竜也の肩を掴んだ。
「じゃあ、頼むぞ」
「うん……まかせて」
ようやく役に立てるかもしれない。
恐れていた過去と向き合うというのに、その嬉しさが湧き上がってくる。
きっと自分にとって、みんなはそれほどまでに。
「とはいえ、学園に直接行くのは良くねェと思うぜ」
「そうだね……敵地に入るなんて、何があるか分からないし……」
「それなら」
いつの間に居たのか、香偲が右手を小さく上げる。
「俺らが調べます。清皇の人たちがどこに現れるのか」
「ま、それしかねェか」
そう言って情報屋二人は顔を見合せた。
そして、任せとけ、と海豚が親指を立ててニッと笑う。
「では接触はお二人の情報を待ってから、ですね」
「なるべく急ぐぜ」
「頼ってばっかでごめん。二人ともよろしく」
「気にしないでください」
慌てたように香偲が首を振る。
そうしてその日は、それぞれ帰路についた。
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